第10章 彼女の苦悩
朝、一日の始まりは不愉快な感情なく始まる。昨晩、吹雪がマフラーを巻いてくれたおかげだろうか、花織は幾分軽い気持ちで目覚めることができた。ただ、もっと頑張らなければならないという気持ちだけはさらに高まっていた。
まだ夜も明けないうちに彼女は目を覚まし、顔を洗って意識を覚醒させた後、すぐにミサンガを編み始めた。朝は良い、日中の出来事を感情に含むこともなく作業ができる。彼女はただ風丸の事だけを考えて、そして時折願いを呟きながら一つ一つ丁寧に糸を編み続ける。
五時を過ぎれば洗濯機を回し、順次外に干す。六時を回れば朝食の下ごしらえを秋たちが降りてくる前に済ませてしまう。昨夜、効率よく動くためのスケジュールを組んだ。よりイナズマジャパンのマネージャーとして役に立てるように。
いつもこなすトレーニングやストレッチは考え事をしてしまいやすい夜に組み込んだ。明らかにオーバーワークだった。イナズマキャラバンで行動していた時だってここまで無理を押して練習はしていなかった。だが、花織は自分を身体的に追い込むことで余計な嫉妬心と不安を払おうとしていた。
「一郎太くんが試合で活躍できますように」
ただ今は、一日がまだ何の色にも染まらない朝いちばんはひたすらに風丸のことを想い、指を動かしていく。丁寧にゆっくりと祈りを織り込み、ただ愛しい彼の為、ミサンガを編んでゆく。
「一郎太くんと、また一緒に走れますように……」
彼のことばかり考えていたからだろうか。ふいに心からの願いがぽろりと零れる。いけない、今はFFIでの彼の活躍だけが願いなのだから。花織は首を振って今編んだ部分を解き、再度編みなおす。
「一郎太くんが誰より速く走れますように」
丁寧に丁寧に糸が編み込まれる。彼のための祈りを込めたトリコロールがまだ寝静まる日本代表の合宿所の一室で刻まれていた。