第10章 彼女の苦悩
花織は目を見開いた。昼間の出来事、きっと吹雪は花織が嫌な感情を抱いたことに気づいたのだ。だからこうして、励まそうとしてくれたのだろう。花織はマフラーに口元を埋めて唇を噛む。やっぱりすぐに感情を露わにしてしまう自分を情けないと思った。
実際は花織が分かりやすいというよりも、花織のことをよく見ている者がいる、というだけなのだが。
「ありがとう、士郎くん……」
吹雪の心配は素直に受け止めて花織は礼を言い、目を伏せる。吹雪はうん、と頷いた。花織は彼のマフラーを握る。深く息を吸い込めば、洗剤のいい香りがする。ただただ温かくて優しい感覚。
「温かいね。なんだか元気が湧いてくる」
「本当?よかった」
吹雪が嬉しそうに微笑んだ。花織はマフラーを握ったまま、吹雪につられて口元を緩めた。が、彼女の心は励まされると同時に、やはり自身への情けなさも覚えていた。
選手に励まされるなんて、マネージャー失格だ。
気持ちを何とか奮い立たせる。醜い焼きもちなんて焼いている場合ではない。まず、日本代表選手のマネージャーとしてもっと頑張らないと。
「私、明日からも頑張るね」
「うん。……花織さん」
決意を秘めた言葉を花織が呟く。吹雪の表情が少しだけ心配そうなものになった。今言葉を呟いた彼女の深刻そうな表情を見て、花織の悩みが取り除けていないことを吹雪は悟る。
……少しでも君の不安を取り除けたらと思ったんだけど、逆効果だったかな。
「無理はしないでね」
ぽんぽん、と吹雪が花織の頭を撫でる。大丈夫だよ、と笑う彼女。決して今の状態が大丈夫ではないことを吹雪も、花織自身もよくわかっていた。