第10章 彼女の苦悩
「ああ、これ。アツヤのマフラーだよ」
「アツヤくんの……」
見覚えがあったわけだ。なぜならこれは吹雪がイナズマキャラバンで旅をしているとき、ずっと身に着けていたものだからだ。彼が悩みを解消したときに外し、そして大切に仕舞っておくと言っていたあのマフラー。
「花織さん、よかったらちょっと巻いてみて」
「え、でも……」
吹雪の突然の提案に花織は戸惑う。吹雪が何よりも大切にしていたマフラー、それもアツヤの形見。他人にそう易々と触れさせても良いものだろうかと。だが吹雪はいいから、と花織の首に簡単にマフラーを巻き付ける。温かくふわりとした感覚が花織の首元を包む。
「花織さんに貸すために探してたんだ」
「私に?」
花織は吹雪のマフラーに手を触れて吹雪に問いかける。吹雪はうん、と首を縦に振って花織を見つめた。深緑色の柔らかい瞳が花織に微笑みかける。
「僕は今でもたまに、どうしようもなく寂しくなったり辛くなったりする時があるんだ。本当に時々だけどね」
「……うん」
無理もない話だ。ずっともう一人の自分に縋って生きてきた吹雪。急にもう一人の自分がいなくなってしまったような感覚は他の者に共有できるものではないだろう。花織は黙って吹雪の話を聞く。
「そんな時にこのマフラーを巻くんだよ。こうしてると元気をもらえるんだ」
吹雪はそこまでいって目を細める。じっと花織を見つめ、ふんわりと微笑みかける。
「今日の花織さん、なんだか少し元気がないみたいだったから。だから僕の元気を分けてあげる」