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諸恋

第10章 彼女の苦悩




***

外に出ると涼しい夜風が花織の黒髪を揺らした。花織は髪を抑えてグラウンドを見つめる。さすがに消灯時間前の今、自主練習をしている者はいない。花織はベランダの手すりに腕をついてぼんやりと階下を眺める。一面真っ暗でまるで彼女の気持ちのようだった。

「花織さん」

彼女の背後からほんわりとした声が花織を呼んだ。花織は髪を抑えて背後を振り返る。彼女の背には後ろ手に手を組んだ銀髪の少年の姿があった。

「士郎くん……」
「珍しいね、ひとりかい?」
「うん」

吹雪の問いに困ったように花織が微笑む。普段、マネージャーの仕事が無い場合、部屋にいる以外は、花織は食堂で風丸と過ごしていることが多い。そうでなければ鬼道と話をしていたり、風丸と共にヒロトや吹雪と話をする。とにかく風丸と同じ空間にいることが多い彼女が、ひとりでいることは少ないのに。

「少し、外の風に当たりたくて」
「僕も一緒にいいかな」

吹雪が花織の隣に歩み寄る。柔らかな笑顔と、声色。人を癒すような空気を持つ吹雪。花織は表情を緩めて夜風に揺れる髪を耳に掛けた。

「うん、いいよ」
「ありがとう」

にっこりと吹雪は微笑んで花織の隣に立つ。ふと隣に立った吹雪が何かを手に持っていることに花織は気が付いた。花織はそれが何か気にかかって首を傾げる。

「どうしたの、花織さん」

吹雪の手元を気にする視線に気が付いたのか、吹雪が不思議そうな顔をして花織を見た、がすぐに彼女の意図に気が付いた。彼は手に持っていたそれを花織の前に差し出す。花織にも見覚えのあるそれ。
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