第10章 彼女の苦悩
「……そうか。分かった、また連絡する」
ウィンディは彼女の気分の変化を敏感に察して潔く引き下がる。グラウンドを立ち去る前、強く風丸を睨みつけて彼は走り去った。風丸はそれに反応して顔を顰める。
花織が気を遣ってやんわりした言葉を使って断ったのを良いことに調子付いている。大体連絡先も知らないくせにいったいどうやって連絡を取る気だ、そんなことを風丸は考えていた。
「みんなごめんなさい。お昼休憩中なのに騒がしくしちゃって」
ウィンディが去った後、花織はチームメンバーに謝ると集まっていた数名の選手が何事もなかったことを安堵して、またもしくは風丸のらしくない威嚇に驚いて、はたまた花織の異変を気に掛けながら合宿所へと戻っていった。
「花織、俺たちも戻ろう」
今度は風丸が花織に手を差し出す。花織は一瞬躊躇し、その手を見つめたがすぐに微笑んで首を振る。
「ごめんね、先に戻ってて。グラウンド整備がまだ終わってないの」
「手伝うよ、花織を一人だけにできないからな」
強く奥歯を噛み締める。今の私は、一人でグラウンド整備すらできない。マネージャーとして、彼の彼女として一人前じゃない。
「大丈夫」
少し強い口調で花織が言い、ブラシを拾い上げる。自分が情けない、花織は強くブラシを握りしめて自分の気持ちを押し殺す。何でもないような顔をして、風丸に気丈に笑う。
「もうすぐ終わるから。一郎太くんは午後も練習あるんだし、先にご飯食べてて。じゃないと休憩時間が無くなっちゃうよ」
私のせいで迷惑かけちゃったんだから。これ以上迷惑はかけられない。それに今は少しで良いから、一人になりたかった。何とか風丸を押し問答で諫め、先に宿舎へ向かわせる。一人残った花織は胸の中に残ったモヤモヤを抱え込んだまま、グラウンドへブラシをかけ始めた。