第9章 畏友
迎えたアメリカとの試合は晴天に恵まれた。今日、この試合がフィールドの魔術師一之瀬一哉の最後の試合になるかもしれない、と思うと花織は複雑な気持ちになった。
あれから一之瀬とは一度も話すことは無く、土門とも数度メールのやり取りをするに限った。しかもそのメールも当たり障りのないもので、一之瀬のことについては一切触れることは無かった。
彼が決めたのであれば、私にはそれを見届けることしかできないだろう。彼の友人として。ピッチに出てきた一之瀬はまっすぐ前を見据えてこちらをちらとも見なかった。土門もいつにもなく険しい表情をしていてこの試合に掛ける意気込みが伝わってくるようだ。
花織は何も言わず、黙って選手のアップを見つめる。隣に座っている秋が複雑そうな表情をして掛けているのを見て、彼女もまた一之瀬がこの試合に掛ける思いを知っているのだと悟った。
「秋ちゃん」
「……」
声を掛けてもぼんやりと黙り込んでしまっている。一之瀬から直接聞いたわけではないのだろうか。花織は少しだけ眉を顰める。しばらくして我に返った様子の秋は作り笑いを浮かべて花織を見た。
「あ、花織ちゃん……、どうしたの?」
「浮かない顔してるから……、大丈夫かなって」
秋が思い悩むのは当たり前だ。秋は花織よりも一之瀬や土門との付き合いが長くて、さらには一之瀬の事故を目の当たりのしているのだから。秋は大丈夫だよ、と繰り返す。自分に言い聞かせるように。