第9章 畏友
「な、カオリ?」
ずいと風丸を押しのけてウィンディは花織に笑顔を向ける。
「め、迷惑だとは思ってないけど……」
その続きも聞かないでほれみたことか、と言わんばかりに今度はウィンディが風丸に勝ち誇った笑みを見せる。膠着状態のまま二人はじっと花織を間に挟んで睨み合う。
「おーいウィンディ、何でいきなり走り出した……」
突如後ろから黒い傘をさして走ってきた緑髪の男がウィンディを呼んだが、あまりの重い空気に口を噤む。ウィンディはちら、とそちらを振り返って憎々し気に風丸を見るとはっきりと宣戦布告をした。
「カオリ、今度ジャパンエリアまでデートに誘いに行く。こんな鈍そうなボーイフレンドなんて放っとけよ」
そう言ってウィンディは素早く花織に顔を寄せ、ほっぺたにちゅっと軽く口づけた。花織はびっくりして頬に手を当て、風丸は思わず目を剥いた。ウィンディは花織だけに微笑んでひらりと手を振った。
「じゃあまたな、カオリ!」
そのまま迎えに来た緑髪の男と共にウィンディは去っていく。風丸と花織の間にはしとしとと雨の音だけが響いている。あまりの出来事に呆気に取られていた風丸はハッと我に返ると傘も荷物もその場に落とす。
「きゃっ、一郎太くん」
そして花織の頬に触れ、ごしごしと先ほどの出来事をなかったことにするために花織の頬を優しく手で擦った。花織は風丸の方に傘をさしかけて、だが何も言えずに押し黙っている。今の風丸は不機嫌そうでとてもではないが声を掛けられるような様子ではない。
「花織」
普段なら人目を気にするはずの風丸が、人目などお構いなしに花織の頬に口づけを落とした。まるで消毒だ、と言わんばかりだ。そしてそのあと唇にもキスを落とす。ざわ、と周囲の通行人が騒めいたような気がしたが、それでも風丸はしれっとした様子で荷物を拾う。花織は彼らしからぬ大胆な行動に顔を真っ赤にした。
「い、一郎太くん」
「帰るぞ花織」
傘と荷物を右手に一括りに持って左手で花織の手を取る。濡れてしまうだとか関係ない。風丸は突如現れた押しの強いライバルに酷く不愉快な気持ちを抱いていた。