第9章 畏友
花織は今、陰鬱な気持ちでいた。というのも風丸宛のファンレターを何通も目にしてしまったからだ。彼のプライバシーを侵害するようなことをする気はないからもちろん手紙の開封などはしていない。それでも封筒に貼られたハートマークのシールだったり、女の子らしい可愛い字で書かれた宛名だけで花織は少し複雑な気持ちになる。
それだけならまだしも葉書もあるのだ。それは目を通したくなくても内容が目に入ってしまう。応援しています、ならまだしも”大好きです”や”格好良くて素敵です”などという彼に対する言葉を見ているとどうしても妬かずにはいられない。
本当はこのファンレターを彼に渡さずに隠滅させてしまえればと思う。他の女の子の彼へ憧れる気持ちはもちろん理解できるが、それを彼に渡したくない。
私は心が狭いのだろうか。たかがファンレターくらいでこんな気持ちにさせられるなんて。
「花織さん」
思いつめるような表情をしている花織を吹雪が呼ぶ。花織は我に返って吹雪を見上げた。吹雪はふわりと微笑んで花織の頬に手を添える。
「……久しぶりだからもっと顔をよく見せて」
低い声で囁きながら吹雪が花織に顔を寄せる。花織は戸惑い目を丸くして頬を少しだけ赤く染めた。吹雪が真剣な顔で花織を覗き込む。このまま近づけばキスができてしまいそうだ。そんな距離がどうしても気恥ずかしくて花織は目を逸らしてしまう。吹雪はふふ、とそんな花織の反応を見て笑った。
「冗談だよ。……ふふっ、花織さん顔真っ赤」
「もう、士郎くん……」
からかうように笑った吹雪に花織は微苦笑を見せる。吹雪はそんな花織の髪を撫でて優しい声で囁いた。
「うん、君はそうやって笑顔の方がいいよ」