第8章 遠ざかる光
「いいか、花織。絶対に一人で合宿所を出るな。誰かと必ず行動を共にしろ。出歩くならば特に風丸と行動を共にするのがいいだろう」
「はい……」
用心するに越したことは無い。影山は文字通りどんな手でも使うのだから。早朝のランニングも控えた方がいいだろう。とにかく一人になることが危険だ。
「鬼道さん……」
「大丈夫だ、お前は俺が守る」
電話越しでもその気持ちははっきりと花織に届く。だが花織は自分の身よりも鬼道のことの方が心配だった。本当に影山が絡んでいるのだとしたら。
「鬼道さん……、私は。私は鬼道さんが心配です」
「俺が?……俺は大丈夫だ、影山も俺自身に危害は加えてこないだろう」
「そうじゃなくて……」
花織は鬼道の言葉を遮る。花織が心配しているのはそこではない、鬼道の心だ。鬼道は影山が絡むと酷く取り乱していつもの冷静さを失ってしまうことがある。影山総帥に刷り込まれたサッカー、今でも影山総帥の作品、という呪縛から逃れられないでいることを花織は鬼道の言葉から知っている。だから心配だった。
「鬼道さん、忘れないでくださいね。貴方は鬼道有人、貴方自身であることを」
凛とした声で花織が鬼道に告げる。鬼道は花織の言葉に押し黙った。花織は一言だけはっきりと宣言するように言った。
「鬼道有人は影山総帥の作品なんかではありません」
彼は時々自分を見失ってしまう。だからそうはならないでほしい。影山の影響力が鬼道にとってここまで強いのはきっと幼少の頃からずっと一人のサッカープレイヤーとして育ててくれた恩を捨てきれていないからだ。でも割り切ってほしい、と花織は思う。育てられたからと言って鬼道は鬼道なのだから。
「分かっている。……ありがとう、花織」
「いえ、どうか気をつけて」
互いにおやすみを告げて電話を切る。花織は立ち上がって窓の外を眺めた。胸にぎゅっと携帯電話を握りしめて星空を見上げる。
「鬼道さん……」
今は、彼のことが心配であったが、それでも彼は一人ではない。円堂も佐久間も、そして不動も付いている。だから大丈夫だろうと信じるしかない。