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諸恋

第8章 遠ざかる光





「花織!!」

突然名前を呼ばれて花織は声の主を振り返る。花織は大きく目を見開いた。そこには今、ここにいるはずのない青い髪の彼が息を切らせて立っている。額には汗を浮かべてじっと花織を見つめている。

「一郎太くん……」

心地よい波の音がふたりの沈黙を見守る。花織は少なからず戸惑っていた。髪を抑えて風丸を見つめる。何故、彼がここにいるのだろう。

「どうしたの、何かあったの?」
「花織……」

風丸はさらさらと髪を揺らして花織の元に歩み寄る。そして静かに花織の手を取って、そのまま何も言わずに花織を自分の胸に抱いた。花織は訳の分からない彼の行動に戸惑う。

「一郎太くん……、どうしたの?」
「すまなかった。気づいてやれなくて……」

えっ、と花織が声を上げて風丸を見上げる。風丸はじっと花織の髪を撫でながら花織を愛し気に見つめて自分の憶測を語る。

「俺の間違いじゃなかったら、なんだが……。花織、昨日俺を誘おうとしてくれてたのか?」
「……」
「俺が円堂と約束してたから、気を遣って何も言わなかったんじゃないか」

風丸は花織の幼稚な誤魔化しを見透かしている。花織は何も言わずに俯いた。彼の言葉は正論だが、ここで頷きたくなかった。それが理由で一人で過ごしていたなんて、いじけているみたいで子供っぽいと思った。それは風丸の恋人として相応しくないと、そう思った。
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