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諸恋

第8章 遠ざかる光




「そこにアイスクリームパーラーがある。お前さえよければ佐久間が来るまで一緒に話さないか?」
「私は構いませんけど……」

花織は困ったような表情を浮かべて鬼道を見つめる。鬼道の提案が嫌なわけではないのだが、佐久間はすぐに戻ってくるのではないだろうかと言いたげだった。鬼道はぐいと彼女の手を引く。

「なら行くぞ。俺のことは気にしなくて良い」

鬼道と花織はアイスクリームパーラー近くのパラソルデスクに掛け、それぞれダブルのアイスクリームを買い、それを話ながら食べた。カップの中のアイスクリームがなくなったころ、鬼道はようやく意を決して花織に聞きたかったことを尋ねる。

「今日は風丸と一緒じゃないんだな。春奈がお前を買い物に誘ったが断られたといっていたから、てっきりアイツと一緒なのかと思ったのだが」
「一郎太くんはキャプテンと一緒にお出掛け中です。なんていうか……その、誘い損ねてしまって」

バカみたいですよね、と花織が自嘲ぎみに笑った。鬼道はわずかに眉間に皺を寄せる。普通こういうときは風丸の方が花織をデートに誘うのが定石ではないだろうか。風丸は意外とそういう部分が鈍いのかもしれないと鬼道は思った。

「だから一郎太くんにいつもの感謝の気持ちを込めて、サプライズでプレゼントでも買おうかなって思って。一人に買い物に来たんですけど……。なかなか決まらなくて」

しゅん、とした様子で花織が鬼道に包み隠さずすべてを語る。鬼道はそんな彼女が何故自分のものでないのだろうかとゴーグルの下で目を細める。花織のその寂しげな表情の理由は風丸への贈り物が決まらないからではない。

おそらく、片時でも良いから風丸と休暇を過ごしたかったという本心を押さえているからに違いないと鬼道は思った。だからこそ、胸の中で煮えたぎるほど風丸一郎太という男を心の底から羨ましいと思う。

「男の人って何を貰ったら嬉しいですか?」

花織は首を傾げて鬼道に問いかける。鬼道は真顔で花織の言葉に即答した。

「俺であれば、花織がくれるものなら何でも嬉しい。お前が俺のために悩み、決めてくれたものなら何だってそう思う」

鬼道は紛れもない自分の本心をのべた。花織は大きく目を見開いて、そして少しだけ頬を赤らめて俯く。
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