第8章 遠ざかる光
***
「あれ、月島じゃないか?」
そういって鬼道に声をかけたのは長い時間をかけてペンギンのキーホルダーをやっと選び終えた佐久間だった。鬼道と佐久間は一緒に買い物に来ていたのだが、佐久間のペンギン好きには辟易するほど土産選びには時間がかかってしまった。
鬼道は佐久間の視線を追う。視線の先には憂い顔でアクセサリーを眺めている彼女の姿があった。いつも側にいるはずの男の姿はなく、どうやら一人の様子だった。鬼道は黙って花織を見つめている。隣に立っていた佐久間が鬼道の方を叩いた。
「声かけろよ鬼道、気になるんだろ」
「いや、だが……」
彼女は風丸とデートをしているのかもしれない。それを邪魔するのは野暮だと思う。だが沈黙して彼女の姿を見ていても彼女の恋人がやって来る気配はない。じれったそうに佐久間が鬼道の背中を押す。
「俺、ちょっとやっぱりさっきのペンギンを連れて帰ろうと思う。だからそれまで行ってろよ。そこにアイスクリームパーラーもあることだし一緒に食べて待っててくれ」
気の遣える男、佐久間はそういってじゃあ行ってくるからと鬼道を残してその場を去っていった。佐久間は鬼道の恋心を知っている。だからこその行動だった。鬼道はふう、とため息をついて彼女を見つめる。声をかけるのは何故だろうか少し緊張した。
「花織」
「!……鬼道さん」
鬼道が声をかけると彼女は少し驚いたように顔をあげた。手にしていた男物のネックレスを棚に戻し、鬼道を向き直る。
「鬼道さん、お一人ですか?」
「ああ。佐久間が土産を買い忘れたと走っていってな。ちょうどお前の姿が見えたから声をかけた。お前こそ一人なのか」
「はい、実は……」
肩を竦めて花織がふっと微笑んだ。どうしてだろうか、鬼道にはその微笑みが寂しそうに見えた。何も言わずに鬼道は花織の手を取る。