第8章 遠ざかる光
花織の声に振り返った風丸だが、その直後に現れた円堂に肩を組まれている。風丸はふっとしょうがないな、と言いたげに笑って円堂に答えた。
「ああ良いぜ。特に予定もなかったからな」
「サンキュー、風丸!」
花織の目の前で一瞬で約束が成立してしまった。花織は口を噤んで、何も言えずに黙り込む。そっか、明日はキャプテンと回るのか。そう思うと早く誘えばよかったという後悔と、邪魔しちゃ悪いなという感情がごちゃ混ぜになって胸がきゅっと痛む。
「花織、さっき何か言いかけてなかったか?」
円堂が去っていくと傍まで歩み寄ってきていた花織の方を向き直って風丸が問いかけた。花織は作り笑いを浮かべて首を横に振った。
「ううん、なんでもない……」
付き合い始めたときから決めている。お互いの交友関係、特に同性との関係の邪魔はしないこと。花織が我儘を言って明日一緒にいてほしいと願えば風丸はそれを聞き入れて円堂の誘いを断るかもしれない。そうすれば彼の交友関係に何かしらの影響を及ぼすかもしれない。風丸も普段は自分の秋たちとの関係に気を遣ってくれているからなおさらだ。
「今日の試合も見てたよ、凄くカッコよかった」
笑って当たり障りのない言葉で誤魔化して。それでもやっぱりどこかで落胆している。
「ああ、ありがとう」
心から嬉しそうに称賛の言葉を受け取って風丸は笑う。花織の心情には気づかないところが、さすがは中学生男子といったところか。
「花織は明日何して過ごすんだ?」
風丸には知りえないことだが、少し無神経な言葉で彼が花織に問いかける。花織は前髪に触れ、えっと……と困ったように視線を逸らしながら風丸の問いかけに答えた。
「秋ちゃんたちと買い物に行こうかなって……。誘われてるから」
「そうか、楽しんで来いよ」
ぽんぽんと花織の髪を撫でて風丸が微笑む。彼は彼女が行動を共にするのが同じマネージャーであることに安堵していて、花織の表情が僅かに固いことに気づいていなかった。