第7章 国を背負う選手
「ヒロトさん、泣いてた?」
この子は観察眼が優れている。選手のことをよく見ている、というか。エイリア学園の時から思っていたけれども相手の心理的な面を察するのに長けている。これはこの子の恋人が一度挫折を味わって、彼女の前を去ってしまったことも原因なのかもしれない。
「私でよかったら話を聞くよ」
「……花織さん」
そっとヒロトが扉を開く。中に入れ、ということらしい。花織は躊躇わずに中に入った。ヒロトはそんな彼女を見て危機感がないと思った。
こんな場面、君の彼氏が見たらどう思うだろうね。
そんなことを思う自分は意地が悪いのかもしれない。それは本当は今の感情を誰にも悟られず、一人で抱えていたかったからかもしれないとヒロトは思う。
ヒロトは花織を部屋へ招き入れると机に備え付けられている椅子に座るように促した。ヒロトは彼女の前に一枚の封筒を差し出す。封筒の隅には小さな桜が押印されている。
「父さんが、俺に手紙をくれたんだ」
父さん、彼が指し示す父親は吉良星二郎、エイリア学園事件を引き起こした張本人だ。その吉良から彼宛に手紙が送られてきたらしい。桜の印。封筒に桜の印が押されているのは警察が検閲したというしるしの印だ。即ちこの手紙は刑務所内から送られてきたものだということを表している。
「父さんは基本的に瞳子姉さんにしか手紙を送らないんだ。向こうからの送れる手紙の数には制限があるから。……でも、俺がFFIの日本代表に選ばれて、世界大会にも進出したから」
大切そうに手紙を見つめ、ヒロトは再び手紙を手に取る。
「父さん、テレビで俺の試合を見てくれてるって。……あそこでは、俺が凄く自慢だって」
ヒロトの瞳が涙で潤む。花織は黙ってヒロトの話を聞いていた。花織はいつも落ち着いていて、大人びてすらいるヒロトがこんな風に言葉を語ってくれるのは初めてだった。いつだって、エイリア学園時代は特に、ヒロトは自分を殺していた。静かにヒロトの白い頬を涙が伝う。
「俺が自分の息子であることを誇りに思ってるって」