第7章 国を背負う選手
「残念です。ではゆっくりとパーティーを楽しんでください」
それだけ言って彼は花織たちの元から去っていった。ふ、と息をついて花織は鬼道から離れる。そして鬼道を見て苦笑した。
「すみません鬼道さん、助けてくださってありがとうございます」
「構わない。……風丸はどうした?」
「飲み物を取りに行ってくれてて……」
なるほど、と鬼道は肩を竦める。その隙をつかれたわけだ。何しろ今日の彼女はいつにも増して美しい。鬼道は何も言わずに他を牽制した。先ほどから花織に対してのナイツオブクイーンのメンバーの視線も気にかかっている。
「花織」
「はい」
「今日のお前はこの会場にいる誰よりも美しい」
エドガー顔負けの誉め言葉を鬼道はさらりと口にする。花織は驚いて少しだけ頬を染めた。困ったようにはにかんで鬼道を見つめる。
「鬼道さんったら……」
「……花織、」
鬼道が二の句を継ぐ前に、彼女を呼ぶ声が響く。鬼道はそのゴーグルの奥の瞳に、明らかに今の一瞬で表情を緩めた彼女を見た。
「花織!すまない、待たせたな」
「一郎太くん」
風丸は花織に持ってきたオレンジジュースを一つ渡す。花織はそれを両手で受け取って礼を言った。鬼道は黙ってそのやり取りを見ている。何も言わずにこぶしを握り締める。
「風丸、花織が先刻声を掛けられていた。取られたくないなら傍を離れるなよ」
「鬼道。……ああ、ありがとう」
鬼道はそれだけを言ってひらりと手を振ってふたりの元を去った。彼らから距離を取って小さくため息をつく。
「鬼道クン」
「不動……」
ふいに掛けられた言葉に鬼道が不動を見た不動はニヤニヤと笑って鬼道を見ている。今の一連の流れを彼は見ていたようだ。
「好きなオンナのために身を引くのは大変だねえ」
「お前には関係ない」
素っ気無く不動の言葉を振り切ろうとする。でも彼の言葉は全く事実で。こうして風丸に花織を譲るたび、胸の奥のほうでチクリと何かが突き刺さる感覚があった。
もう手は届かないとわかっているのに。
振り返り美しい女性を見つめる。胸にあるこの感情はどんなことがあってもそよぐことすらない。ただ残酷に鬼道を苦しめ続ける。