第7章 国を背負う選手
恋人の花織から見てもあんなに格好いいのだ。ファンの存在をなぜ今まで考えずにいられたのだろうか。
「花織!」
店の前で呆然と立ち尽くしている彼女に気が付いた風丸が誰かに声を掛けられるよりも早く、花織の元へ駆け寄る。風丸は花織の顔を覗き込む。花織は彼を見上げた。いつも通り、頼もしくてかっこいい。
「花織、買い物は済んだのか?」
「……うん、もう終わったよ」
何とか花織は微笑んで見せる。だが彼女の耳には先ほどの女子グループの顰められた声が僅かに届いている。
「アレ誰だろ?彼女かな……」
「えー、嘘。やだあ」
「マネージャーでしょ?買い出しじゃないの?」
がさり、とスポーツショップのビニール袋を無意識に自分の後ろへ隠す。ユニフォームのレプリカ。お揃いになるかも、なんて浮かれて購入したことが酷く恥ずかしい。彼の恋人のはずなのに自分が一ファンの領域を抜けられていないような気がして酷く心が複雑な気持ちに包まれる。
「荷物重いか?よかったら俺が持つよ」
風丸がそっと手を差し出したが、花織は首を振る。堂々としていなければ、私は彼の恋人だから。花織は上目遣いに風丸を見上げる。
「……一郎太くん」
「花織、どうしたんだ?」
先ほどよりも花織の表情が陰っているような気がした風丸が心配そうに花織を覗き込む。花織はそっと風丸の手の上に自分の右手を乗せた。
「荷物はいいから、その……。手、繋ぎたいな」
絞り出すような声で花織が切実に言った。彼女が他の人間にできる最大限のアピールだった。風丸は花織が恥じらっているのかと思ったのかそれを可愛らしいと思いつつ、掌に乗せられた彼女の手を握る。
「行こうか、花織」
「……うん」
彼の手を握って自分に合わせてくれる彼の歩調を追って歩く。背後からは突き刺さるような視線。でも渡せない、誰にも譲れない。この人は誰にも渡したくない。
そんなことを考えるさなかにふっと、もう一つの考えが過る。
そもそも私は、彼にとって相応しいのだろうか。