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諸恋

第6章 男女の違い




手を繋いで歩く。たったそれだけ、なのにそれがとても幸せで。行く当てなどなくても隣にいるのが彼ならばそれだけでよかった。人気のない廊下、本来なら選手以外立ち入り禁止と立てられた札の奥で、彼は立ち止まる。

「花織」

その名を呼ぶ声はどこまでも優しい。花織は彼を見上げる。風丸は、ふっと口元に微笑みを浮かべて花織を見つめる。彼の茶色の瞳の中に映る愛しい少女の姿をただ見つめている。

「いよいよアジア予選の決勝だな」
「……うん」

思い出すと緊張で跳ね上がる鼓動、花織は緊張でめまいがするほどだった。時間が迫っている、イナズマジャパンが世界へ羽ばたくことができるか、その結末がこれからの一戦に掛かっている。それなのに風丸はとても落ち着いているように見えた。

「緊張してないの?」
「してるさ」

花織が問いかければ当然のことのように風丸が言う。そうっと花織の頬に右手を滑らせる。花織の瞳がじっと風丸を見つめる。言葉の割には花織の黒の瞳に映る風丸のその表情に緊張は感じられない。風丸は花織を見つめて優しく表情を綻ばせた。

「でも花織が見ていてくれるなら、俺はいつも通りの俺でいられる」

頬に添えられた手がゆっくりと背に回る。彼の腕が壊れ物を包むようにゆっくり花織を抱き寄せる。花織はされるがまま、風丸の腕の中に抱かれた。温かくて逞しい胸板に耳を寄せれば、早い彼の胸の鼓動が聞こえた。

「花織」

静かに彼が花織を呼ぶ。花織は彼の腕の中でただ呼吸を繰り返した。彼の香りがして、とても胸が落ち着いた。風丸もまた、彼女の匂いに心を落ち着かせる。しばらくそうして抱き合っていた。花織、ともう一度風丸は彼女を呼び、顔を上げさせる。その頬はほんのりと赤い。花織を見つめる瞳は何よりも愛おし気に花織を見つめている。

その瞳は好きだという言葉以上に花織を好きなのだと主張している。そんな瞳に射すくめられて花織は心の中の蟠りが少しだけ解れたような気がした。

「俺、最近花織を避けてた。でもそれは断じて花織に飽きたからとかじゃない」

風丸が呟く。花織は風丸の言葉に驚いた。
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