第6章 男女の違い
リカが何か言ったのだろうか。動揺に意識を散らす花織を呼んで風丸は彼女の意識を自分に向けさせる。
「あのさ、俺……。ずっと花織が欲しいって思ってたんだ。花織の全部が今、手に入ってない部分も全部」
「一郎太くん……」
大事な試合の前にする話ではない、だが大事な試合の前だからこそする話だった。蟠りを残したまま試合に臨むことはできない。風丸は言葉を濁して花織に伝える。だが花織は風丸が何を言おうとしているかはわかっていた。彼女は頬を赤らめる。風丸も恥ずかしさからか頬を赤くしていた。
「自分任せにお前をどうにかしてしまいそうで、怖かったんだ。……最近の花織は俺にはあまりに……その、魅力的に見えたから」
気づいていてくれたのだ、花織の瞳がきらりと輝く。その事実は嬉しいと共に申し訳なかった、そのせいで彼は少なくとも悩んでしまったのだろう。風丸の指先が花織の頬を撫ぜる。
「俺はさ、無責任なことをしてお前を傷つけたくない。今はまだ、花織が隣にいてくれるだけで俺は満足だから。……あのさ、花織」
風丸が微笑む。慈しみ、ただただ愛おし気に花織を見つめる。
「俺の事、応援してくれるか?」
その問いかけの答えは決まっている。
「……うん」
やっと腕の中で花織が花のように微笑んだ。数日間、すれ違っていた何かが嚙み合った瞬間だった。性別も何も関係ない、今目に映るこのお互いがただ好きで、触れていたい。
「誰よりも私は、一郎太くんを応援してるよ」
もっと先を求める気持ちはある、でもまだ今はこれでいい。風丸は手の中の愛しい少女を見つめる。今はこれで十分だ、この衝動も彼女の気持ちを思えば堪えられる。
手に入らないと思っていた心がこの手の中にあるのだ、それをみすみす自分の本能で失ってどうする。
風丸が優しく花織の髪を撫で、頬に再び手を添える。慈しむようなその瞳は真っ直ぐに逸らされることは無い。花織は静かに目を閉じた。柔らかい触れるだけの感触がまるで永遠のように残る。目を開けば映るのは愛しいその人。嬉しくて笑みが零れて、それを見て彼も安心したように微笑んだ。
「絶対に勝つ。勝って、一緒に世界に行こう」