第6章 男女の違い
「き、鬼道さ」
「花織、不動に何をされた。正直に答えろ」
今まで聞いたことがないくらい低く、怒りを孕んだ声だった。基本的に鬼道が花織に語り掛けるときは他の者に対してより柔らかく、そして優しく話しかける。だが今は不動への怒りと、この頃の花織の無防備さへの不満も相まって酷く冷たい声色だった。
「別に何も、ばったり鉢合わせただけで……」
花織は咄嗟に嘘をつく。もしここで正直に身体を触られた、などということを口にしたら不動の身に何が起こるか分からない。花織が若干、鬼道の剣幕に怯えながらそう言えば鬼道はゴーグル越しに目を細め、眉間に皺を寄せた。
「本当だな?」
「は、はい……」
花織が首をこくこくと縦に振る。そこでようやく鬼道は息をついて花織の横の壁についていた手を下した。
「お前は酷く魅力的だ。不動の奴が何か間違いを働こうとしているのではないかと思って少々乱暴なことをしてしまった、すまない」
「い、いえ……」
花織が首を横にふる。まさにその通りなどとは今更言えない。鬼道はじっと花織を見据え、まだ厳しい面持ちで花織に忠告する。
「花織、お前は女だ。そしてこの合宿所にいるのはお前の恋人である風丸を含め大半が男。あまり煽るような……、いや」
あまり煽るような言動は慎め、と鬼道は一番忠告したかったが、どうせ彼女はわざと男を煽っているわけではなく、無意識にそれをしているのだ。だからたちが悪い。そもそも無意識に彼女は男を惹きつけている。そういうフェロモンが出ているのかと訝しむくらいには。
「とにかく自分を飾るなら、なるべく風丸の前にだけにしておけ。いいな?」
その忠告は不動と同じだった。意外と彼らの思考は似ているのかもしれない、と思いながら花織は頷く。そこで鬼道はようやく表情を解した。
「わかったなら良い。……用件が済んだなら部屋まで送ろう。明日は決勝戦なのだから、俺もお前も早く休まなくてはな」