第5章 魅惑の女性
鬼道と久々に話をゆっくりとして、花織の不安もかなり解消された。女は悩みがあるとき話を聞いてもらいたがるものだという。花織は直接彼に悩みを相談したわけではないのだが、ただただ普通の 世間一般的な会話をすることで気持ちが解れるのを感じていた。鬼道は花織を公平な立場から評価してくれて、それでいて彼女を持ち上げるのが上手い。だから自然と彼女の機嫌も良くなっていた。
今日も湯上りに風丸の部屋を訪れる。約束は特にしていないが、毎日こうしてこの時間に会うことにしているのだから約束など必要なかった。いつも、そうなのだから。花織が戸を叩けば少しして風丸が戸を開ける。
「花織」
風丸は花織を見つめて微笑もうとした、がその前に彼は硬直した。何かに反応して彼は少しだけ頬を赤くする。その理由は彼女の赤みが差した頬だったり、例によって惜しげもなく晒された白い肌だったり、彼女が使っている石鹸の匂いだったりした。
「一郎太くん、時間いいかな?」
さらりと流れる髪を抑えて彼女が首を傾げる。美しい黒髪は恐らく乾かしたのだろうが、まだ少ししっとりとしている。風丸は今この状態の彼女を自室に上げ、何もせずに無事に部屋に帰すことができる自信がなかった。もうすでに堪えがたい衝動が首を擡げ始めている。風丸は目を逸らしてすまない、と呟いた。
「今日はもう寝ようと思うんだ。ちょっと疲れててな」
「あ、そうなんだ。体調は大丈夫?食事はとれた?……顔、少し赤いみたいだけど」
咄嗟の嘘を風丸が付けば花織は心配そうに風丸の顔を覗き込む。白い首筋、そしてシャツの中の白い果実がちらりと見えた。
「……っ」
風丸の額に触れようとした花織の手を避けて風丸は部屋に引っ込む。今、花織に触れられるのはまずいと思った。ただでさえ、彼女が身動きしただけでよい香りが鼻腔をつくのに。
「だ、大丈夫だ。寝てれば治るから」
おやすみ、といって彼は逃げるようにぴしゃりと扉を閉めてしまう。花織は伸ばした腕を静かに下した。変な様子だった、あんなの初めてだった。花織は酷く困惑していた、おそらく彼女が考えるにわざとではないとはいえ、触れようとしたことを拒絶されたのが思いのほかショックであった。