第5章 魅惑の女性
風丸の部屋を出た花織は一度自分の部屋に戻り、着替えると毎度のことながら地下の修練所へ向かった。もう少し風丸と一緒に過ごしたかった、というのが本音だが彼の邪魔になるようならば引き下がるのが一番だ。彼のために、余った時間は自分のレベルアップに使いたい。
地下修練所の電気を付ける。軽く準備運動をしてマシンの設定を始めた。ここへこんな時間に、それも入浴した後に来るのは自分が練習を積んでいることを人に知られたくないからだ。おそらく先日のミーティングでの態度からして鬼道は知っているのだろうが。
今は日本代表のために尽くすのがマネージャーとしての役割。今の花織の行動はそのあるべきマネージャーの姿から外れている。花織個人の練習はチームにとって何の役にも立たないからだ。本当ならば選手たちのために栄養バランスのとれた食事を考えたり、明日の練習に向けて準備をしているのが正しい。
ここで練習をするのは花織の我儘だ。風丸と一緒に走っていたい。その気持ちのために彼女は特訓を重ねる。
「よし」
彼女の目前の目標は風神の舞の習得。彼のための必殺技だが、自分も覚えたいと思った。彼の真似なのかもしれない。だが、花織と共に編み出したのだと彼自身がそう言ってくれたならば共に編み出したはずの花織ができないのはおかしい、と花織は思う。速くなりたい、もっと彼に近づきたい。誰よりも速い、彼の隣を走るために。
意志の強い瞳で花織は設定画面を見つめる。練習の時の彼女はいつもの柔和で優しい瞳とは一転して、むしろ強気で凛然としたものとなる。彼女の細い指が詳細項目を設定していく。やはり選択するのは最大レベル。深く深呼吸をしてスタートボタンを押した。