第5章 魅惑の女性
低く威圧を孕んだ声だった。正直、鬼道は風丸と花織の関係に口を挟める立場ではないのだが、彼の忠告に効力があるのは風丸の立場と花織の立場が日本代表選手とそのマネージャーだったからだ。
不祥事を起こせば最悪二人ともイナズマジャパンから追放ということも考えられる。いや、そんな鬼道の言葉の制約以上に風丸の中では花織を大切にしたいという感情が一番だった。自分の感情に任せた行動で花織を傷つけるようなことは絶対にしたくない。
「そうなの?じゃあ、私も手伝うよ」
風丸の葛藤を知らない花織は彼に合わせてゆっくり立ち上がる。その振動だけで僅かに彼女の胸が揺れた。誰だ、花織の胸がそんなに大きくないなんて言ったやつは。風丸は今にも飛び出そうとする衝動を必死に理性で抑えながらいつもと同じように笑顔を浮かべる。
「いや、花織には頼るなって釘を刺されててさ… …」
「……そっか。じゃあもう私、部屋に戻るね。邪魔になったら悪いから」
聞き分けがよく、風丸を一番に考える花織はあっさりと引き下がった。風丸は安堵の息を吐く。だが彼への試練はまだまだ終わらない。花織はそっと風丸の傍に歩み寄ると風丸の両肩に手を掛けてぐっと背伸びをした。
風丸が目を丸くすると同時にちゅっと触れるだけの軽い口づけが花織から施される。同時に彼女の柔らかい胸が風丸の胸板に押し付けられた。彼女は照れたようにはにかみ、風丸に身体を密着させたまま、風丸を上目遣いで見つめる。
「頑張ってね、一郎太くん。おやすみ」
そう言って彼女は風のように去ってゆく。呆然と立ち尽くしていた風丸はからりと扉が閉まる音と共にずるずると床に 崩れ落ちた。部屋には彼女の香りがまだ残っている。