第5章 魅惑の女性
部屋に花織とふたりきりでいるのは良いが、いつも以上に風丸は上の空だった。先ほど読んだ本のせいで、自分の自分が何を欲しているのか、欲求が露わになってしまったせいだ。彼も中学生男子だから、様々な妄想が頭を駆ける。目の前で楽しそうに笑む彼女を今すぐに押し倒してしまいたいという気持ちがじわじわと彼の心を蝕んでいる。
「一郎太くん」
花織が風丸の肩を叩く。びくっ、と彼は肩を揺らして驚いた顔をした。風丸は硬直して花織の手を見る。小さい手、自分よりもはるかに白くて指は細いし。手首だって。腕も自分に比べればほっそりとしている。自分の手を見つめて何もいわない風丸を花織は怪訝そうに見つめる。花織は風丸のいつもとは違う反応に細い眉を寄せて首を傾げた。
「どうしたの?何かあった?」
心配そうな声色に風丸の視線は正面へと引き戻される。いつもとは違うアップにされた髪型、惜しげもなく晒された白い肌、愛おしい彼女。
「ああ、いや……、疲れてるの、かな」
歯切れ悪く風丸が返す。すると花織はにこりと笑って風丸を見つめた。彼女が今日、髪を纏めて風呂から戻ってきたのにはわけがあった。
「一郎太くん、私よかったらマッサージしようか。今まで自分の足ではやってたし、一郎太くんにしてあげられたらって思って勉強してきたんだ」
「えっ、」
よりによって今日、それも今この提案をされるとは間が悪い。他意のない彼女はやる気満々で、だからこそ邪魔にならないように髪を結んできたのだろう。純粋に風丸の疲れを取りたいその一心で。今、花織に触れられると色々とまずい気がする。でも彼女の好意を無駄にはしたくない。
……俺が堪えればいいだけだ。
風丸は腹を括って花織の提案を受け入れる。
「あ、ああ。じゃあ頼むよ」
「うん。じゃあ、うつ伏せに寝てくれる」
花織に言われるがまま、風丸は床にうつ伏せになる。花織は風丸の腰の横に座って準備を整える。
「じゃあちょっと触るから、痛かったら教えてね」