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【YOI・男主&勇ヴィク】貴方の、『a』のみの愛。

第3章 『a』という名の、喜怒愛落。


「ロシアの皇帝、ヴィクトル・ニキフォロフがブランクなど感じさせず、見事な優勝を成し遂げました。まさにリビング・レジェンド!そんな彼の今回のEXは、ラフマニノフの『ヴォカリーズ』。これは初披露ですね!」
物悲しいピアノの和音に続いて、何処か不完成ではあるが甘い男声による歌が始まると、ヴィクトルはまるでその歌声に包まれるかのように、己の身体を一度抱きしめてから滑り始めた。
「これは…男声による『ヴォカリーズ』とは、珍しいですね。本来女声や器楽による演奏が主体ですが、そのせいなのか少々不安定にも感じられます」
「でも、それが逆に素朴な味わいも帯びているのではないでしょうか。ヴィクトルの滑らかなスケーティングとも、中々マッチしていると思いますよ」

「な、な、ななななな何してくれとんねん、あの『バカ』が!!」
関西人がこの形容詞を用いる時は、相当腹を立てている証拠とも言われている。
家族に「夜中に騒ぐな」と叱られた後も、純はタブレットを前に頭を抱えた。
そして、同様に姉の真利から叱咤されていた勇利も、ノートPCの前で両手を顔に当てながら、顔を赤く青くさせていた。
「純はまだいいじゃないか!僕なんか、全世界に公開処刑だよ!?何これ!【滑ってみた】の後は【歌ってみた】とか言われちゃうの!?」
「アホ!僕かて、あんなお粗末なピアノ!地元リンクの発表会とユーロじゃ大違いや!こんな事ならもっと真面目にレッスン…やない、あのデコともっとキッチリ制約設けとくんやった~~!」
「…うん、確かに約束したね。『競技には使わない』って。でもさ、コレはいくら何でもあんまりすぎやしないかな…ははは……」
純と電話を繋いだまま、乾いた笑い声を漏らしていた勇利だったが、ふと、滑り続けるヴィクトルの瞳が濡れているのに気が付いた。

初めて聴いた時は、涙が止まらなかった。
だけど、それ以上に自分の為だけに歌われたこの音楽で、絶対に踊りたいと思った。
母音のみの『a』という名の愛が、彼からの俺への愛が、この歌には溢れている。
練習中も、何度リンクで歌う彼の幻を見た事だろうか。
幸せなのに、涙が止まらない。
そして、離れ離れでいるのがこんなにも辛いなど、感じた事すらなかった。
──勇利、お前に会うまでは。
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