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【YOI・男主&勇ヴィク】貴方の、『a』のみの愛。

第3章 『a』という名の、喜怒愛落。


やがて、ピアノと歌の主旋律と副旋律が交代する終盤に差し掛かると、ヴィクトルは、溢れ出た涙が自分の頬を伝うのを覚えた。
(やっぱり止められなかった…だけど、これでもだいぶ堪えた方なんだよ。だって、こんなにも勇利からの想いが込められてるんだもの)
慣れる為に帰りの飛行機の中、エンドレスでリピートする度に泣き崩れ、隣りにいたユーリをドン引きさせたり、ロシアのリンクで練習中も、感極まり過ぎて動きが止まってしまったりもした。
『いい加減にしろよ!お前、カツ丼達と約束しただろ!遊びにしか使わねえって!』
『使わないのは競技、にだよ』
『仮にも皇帝が、滑る度にベソかいてるなんざ、みっともねーんだよ!ったく、こんな所まで弟子に似たのかァ!?』
『あ、そうなのかな♪』
『…付き合いきれねえ』
(勇利、会いたいよ。お前と離れている事が、こんなにも辛いなんて思わなかった…)
天に向かって伸ばされた両手が、何かを掬い上げるような素振りを見せた後、それを愛おしそうに胸の前に抱えたヴィクトルは、氷の上に片膝を着くと、濡れた頬を無意識に指輪の光る右手に近づけた。

「…絆されとるんやないやろな」
「え…え、な、何?」
いつしか自分の歌声で踊るヴィクトルに心を奪われていた勇利は、スマホから聞こえてきた純の不機嫌そうな声に、慌てて我に返った。
「確かに、傍から見る分には悪ぅない演技やったと思うで。これまでどっちかというと無機質な美しさの印象が強かったデコが、随分と人間味を帯びた伸びやかなスケーティングしてたし」
「あ、やっぱり?僕もそう思っ…あ、」
「ふふふ…ホンマに勇利は、『面白いお人』やなあ」
顔を見なくとも純が相当腹を立てている事を、勇利は彼の声と、典型的な京都弁の言い回しからひしひしと感じる。
その間にも、PC画面では演技を終えたヴィクトルが、インタビューに応じていた。
「ある人が、俺の為だけに歌ってくれた曲なんだ。耳にした瞬間、絶対に踊りたいと思ったよ。…え?それは秘密。約束だから」
何処かにやけた表情のヴィクトルが、しきりに右手薬指に着けられた指輪を触っている姿を見て、早くもスケオタの間では『あ、多分勝生勇利だ』『勝生じゃね?声似てたし』『じゃあ、伴奏は上林か。あいつピアノ趣味だし、勝生と年末一緒だったようだし』と囁かれ始めていた。
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