• テキストサイズ

【YOI・男主&勇ヴィク】貴方の、『a』のみの愛。

第2章 始まりは、『a』。


母音の『a』のみで歌いながら、勇利は純に言われた通りヴィクトルが滑る所を想像してみた。
先日、ひょんな事から歌でスケートを表現する羽目になった勇利だったが、慣れないながらも普段自分が身体全体で奏でている音楽とは違った新鮮な気持ちも覚えていた。
最近は競技でも歌曲の使用が認められているが、やはり歌詞や歌声が集中の妨げにならないかと気になってしまう。
それだけに、改めてヴィクトルの「離れずにそばにいて」は、彼の表現力をはじめ歌詞メロディ共に本当に名作なのだと思った。
そんなヴィクトルに、気まぐれとはいえ「勇利の歌で滑りたい」と言われている自分は、果報者なのかどうなのか。
だけど、そんな我侭を叶えてあげたいと勇利が思っているのも誤魔化しようのない事実で、そしてそれに付き合ってくれる純の存在は、本当に有難いものだった。
(ヴィクトル、君はどんな風に滑りたい?僕の歌でどんな…)
いつしか勇利の脳裏には、己の歌に合わせて氷上を舞う愛しい人の姿が浮かんで来た。
「!」
「…変わった」
勇利から紡ぎ出される歌声に、純とミナコは微妙な変化を感じ取った。
先程よりもスムーズに流れるようになった勇利の声を聴いた純は、その歌に密に合わせるよう、聴覚その他を研ぎすませながら鍵盤の上に指を滑らせていく。
勇利達が気になったのか、ヴィクトルと離れて単独行動をしていたユーリがスタジオを訪れていたが、いつもの調子で揶揄するつもりが、何かに視線を奪われた後で慌てたように目を擦っていた。
夢か幻か、しかしスタジオにいる誰もが確かに見たのである。
愛しい人への想いを込めて歌い続ける勇利の視線の先で、軽やかに踊る『皇帝』の姿を。

どうにかすべての作業を終えた勇利達は、カフェでユーリへの口止め料も兼ねた休憩を取ってから、ヴィクトルの待つ実家に戻った。
早く聴かせて欲しいとせがむヴィクトルに、「これは勇利からのお年玉のようなものやから、元旦に僕が京都に帰ってからにしてくれ」という純によって、当日まで厳重保管されていた。
年が明け、予告通り純の帰宅と共に解禁されたそれを、ヴィクトルは寝室でひとりワクワクしながら再生する。
しかし、間もなくイヤホン越しに届いた歌と想いに、気がつけば彼の頬には、温かい雫が止めどなく伝い続けていた。
/ 12ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp