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【ツキウタ】secrecy

第1章 secrecy


 新くんに出会ったのは半年前だったか。ドルオタの友達にぼっち参戦は嫌だと駄々をこねられた結果、チケットを片手に握らされ、慣れないライブに連れて行かされた。人は多いわ音は煩いわで会場に入って間もなく帰りたいと念じていた。

 ──「卯月新でーす。よろしくな~」

 そこで出会った自称桜の申し子。他のメンバーとは異彩を放つゆるい自己紹介を聞くと、なぜか私の凹凸にはまるように直感が鐘を鳴らした。これは運命。私の周りに春が来た。そこからはもう言うまでもなく転げ落ちるようにSix Gravity──卯月新くんにぞっこん。プロフィールを丸暗記しグッズを集め、友達と一緒にライブ参戦。色味のない部屋がオレンジに染まるのも早かった。

「さーん」
「えっ」
「え、じゃなくて。ペアワーク。ここのページ、交互に読めって」
「あ、あ、ああ、うん。ごめん、やろっか」

 新くんが私の苗字呼んでる新くんが私の苗字呼んでる新くんが私の苗字呼んでる。握手会には行ったことがないので彼も私のことは知らないだろう(行っていたにしても覚えてもらえているかは定かでない)。四月に同じクラスになった時とは比べられない高揚感がある。湿った季節だというのに最近の私の脳内は春爛漫だ。桜吹雪が舞い終わらない。新くんが英文を読み終えるとまた大きな欠伸をした。かわいい。

「一日に何回欠伸するの」
「せーり現象せーり現象。さんだってぼーっとしてただろ」
「関係なくない?」

 クールな返答を心がけつつ、心はまったく余裕がない。私、ほんとに新くんと話してる。ファンであることを本人たちに公表するクラスメイトがいないわけじゃないが、私は気恥ずかしさが勝るし、こういうプライベートの場ではいちクラスメイトとして接したかった。

「そういえばさ、」
「ん?」
「さんの私物、オレンジ多いよな」
「……好きなんだよね。オレンジ」
「ふーん。なんかイメージと違う」
「違うって言われても」
「なんか青っぽい」
「人を見かけで判断しないの」
「あー、それはブーメランだわー」

 よく言われる、という意味だろう。私の好きな色はお察しの通り寒色系だが、新くんファンになってからはとにかくオレンジが目立つ。正直危なかった。疑われはしないだろうが、ボロを出さないようにしないといけない。
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