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【ツキウタ】secrecy

第1章 secrecy


 14と書かれた文字は窓際の一番前を示していた。周りの喜怒哀楽が入り混じった声に紛れて自分もため息をつく。花粉症気味の私としては場所的にあまりよろしくない結果だが、まあ隅を確保できたので良しとした。あと重要なのは近所の顔ぶれだが、後ろは近藤君、斜め後ろは岸田君である。あまり話したことはないが、騒ぐ人でもなさそうなので比較的静かに過ごせそうだ。席替えグッジョブ。

「えーっと……」

 さて、問題は隣になった彼である。「、さん?」と、首を傾げた卯月君に空笑いが漏れた。

「疑問形なんだ」
「あー……。なんか自信なくて」
「そっか。私も顔と名前が一致してない人多いから大丈夫」
「え、もう六月なのに」

 「お互い様でしょ」と教科書を机の中に突っ込む。今まで近所どころか同じ列にもなったことがなかった卯月君とはこれが初の会話である。普段から何を考えているのか分からない彼だが、話してみると案外普通だ。

「俺も?」
「何が?」
「顔と名前が一致してない人に入ってる?」
「……卯月新くん」
「おぉ~」
「やる気のない拍手ありがとう」

 早くも背中を伸ばして「ねむ……」と突っ伏しはじめた。まだ朝一の授業も始まっていないのにスタートダッシュがそれで大丈夫かと思いきや、くるりと首だけこちらを向けた。

「教科書忘れたら見せて」
「忘れない努力はしようね」

 はい、今から現代文。とわざとらしく教科書を見せると、卯月君が心底嫌そうに「えー……」と喉を鳴らした。




 いつもの1.5秒速で歩いて家に帰る。駆け足で自分の部屋に篭り、深く深く息を吸って、「ジャスティスッ!!」と叫んだ。そしてクッションを抱いて床に転がり込む。制服の皺なんか気にする暇はない。

「あの新くんが隣の席!? ほんとに!? 夢じゃない!?」

 両頬を思い切り引っ叩いて現実だと思い知る。「夢じゃない!!」と再び床にごろごろと転がって制服にハウスダストを付けていく。よくもまあ学校ではあんなに平然を突き通せたものだと自分に自分へ賞状ものだ。同じ学校なのは知っていた。四月の頃にクラス替えで同じと分かった時には言葉を失ったが、まさか同じ空間にいるだけでハッピーな日々がこれから合法的に毎日彼の隣に座れるとは。

「熱あっても学校行く……」

 部屋はオレンジ一色。壁一面には卯月新くんで覆い尽くされていた。
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