第1章 secrecy
「ピンク二つ、お待たせしましたー」
売店に来て、なんとなく今日は違う色を食べようかなあと思い、友達と同じ色にした。やっぱりオレンジの方が注文率は多いし、美味しく感じるんだけど。
「え〝っ」
「おー、さん。昨日ぶり」
つきうさまんを受け取ったところでなんと背後にはキャップを被った新くん。さっきまでガラス越しにいた芸能人が目の前にいるとそれはもう驚く。変な声出してしまって恥ずかしい。
「か、買い物?」
「まあ、そんなところ。昼ごはんの買い出しじゃんけんで負けた」
「へえ……」
「ここの近くでラジオ収録やってたんだけど、知らないか? 結構人多かったと思うんだが」
「……今来たばっかだから分かんないかな」
「あーあ、惜しいなー。せっかく俺の晴れ姿が拝めるチャンスだったのに」
最初から最後まで見てましたとは言えない。そしてちゃっかり拝み倒したとも言えない。「ははは……」と中身のない愛想笑いをしていると、じーっと手元のつきうさまんを見ていた。
「な、なに?」
「よりにもよってピンクとか」
「可愛くない?」
「どこが?」
絶対恋くんと重ねてるなあ。いつもよりむすっとしているのが私でも分かる。無難に葵くんカラーにすれば良かっただろうか。
「それよりもオレンジの方がかわいいと思うぞー。ほらほら」
「そんなアピールされても……」
とても同意したいが、視線を逸らすことしかできない。いつも即オレンジ買ってるんだよねと言うのもなんだか……うん。さすがに意識しすぎだろうか。
「水色と金を一つと、オレンジを二つください」
あれ、ここでも恋くんいじめ? 大人気ないと同時に可愛らしいとも思う私はさすがに毒されていることを自覚しつつ、つきうさまんを受け取った新くんを見守った。
「はい、こーかん」
「え」
「オレンジの方が美味いから」
「でも、これって皮の着色料だけが違うだけで中身は同じ──」
「美味いから」
真顔の圧力で受け取らざる得なかった。可愛らしいオレンジうさぎのつぶらな目を見つめて、一口かぶりついた。
「どう?」
「……おいしい」
「だろー?」と勝ち誇るような声色に少し笑った。表情は相変わらず分かりにくいが。のほほんというか、ほわほわというか。そんな気分にさせられる。やっぱり好きだなあ、新くん。