第12章 気持ち
「あんな」
ふいに名前を呼ばれて心臓がドキリと鳴る。
普段から「おい」とか「お前」とかで私の名前を呼ぶことは少ない。
だからこそ余計にドキッとしてしまう。
「…は、離して」
「断る」
今すぐこの場から離れたかった。
私はこんな神田知らない。初めて見る表情にどうしていいか分からなかった。
「…お前が好きだ」
「…えっ…」
突然の事で一瞬思考が停止する。
「聞いてるのか?」
「…え、…あ、、あぁっ!家族!家族としてだよね?」
「はぁ…」
眉間に皺を寄せ不機嫌そうにしている姿はいつも通りの筈なのに今の私にはどうにも落ち着かなかった。
「お前の事だからそんな風にしか見てないのは分かってた」
「だって…ずっと…」
神田を異性として見たことなどない。
ずっと家族みたいに思っていて、いつも傍にいるのが当たり前だったのだから。
「ま、そういう風に見れないなら意識させるまでだけどな」
真っすぐと私を捕らえて離さない瞳に思わず背筋がゾクリとする。
これは獣が獲物を狩る時の目だと思った。
「…か、神田さんの目が怖いです」
「ハッ。覚悟しとけ」
一体どうしてこんな事になってしまったんだと一人心の中で嘆くあんなだった。
「あんな?」
「はぁ…食欲ない…」
「いや、既に結構食ってるさ」
テーブルには空になった皿が山積みになっている。
あれから色々考えたがどうしていいか分からないでいた。
好きって言われただけで、別にどうするわけでもなく今に至るわけだが…
「はぁ~~っ」
「そうですね。いつもより食べてないみたいですね」
「え、これで?」
アレンとラビと一緒に昼食をとっている所だがあまり食欲もわかず手つかずのお皿をアレンに譲る。
「そんなため息ばっかついてどうしたんさ?」
「ん~…ちょっと…」
心配そうに私の顔を覗き込むラビ。
さすがに神田とのことを話すわけにもいかずはぐらかす。