第11章 優しい守り番
「その服、良く似合ってるな」
「破れてるし泥ついてるけどね」
「このまま、本当に俺の花嫁になってもいいんだがな?」
そう言ってウィルの手が私の髪の毛に伸びてくる。
すくい上げるように髪の毛を掴みそっと髪に唇を落とす。
「なっ…!」
突然の事で思わず固まってしまう。
「ふっ。冗談だ。また昨日みたいに斬りかかられたら敵わんからな、この辺にしとくか」
何とも楽しげな表情で笑っている。からかうのも程々にして欲しい。
正直この手の事はあまり慣れていないためすぐに顔が赤くなってしまう。
「それにしても…」
「なに?」
ウィルがジーッとこちらを見て何か言いたそうにしていた。
「少し胸元が寂し」
ードカッ
彼が最後まで言い終わる前に一発拳を入れる。
お前もかよ!とツッコミながら、どうして男ってやつはこうなんだ!失礼にも程があるぞ!と嘆いていたあんなだった。
「…で、ウィルはこれからどうするの?」
泉の力は失われた今彼がここに居続ける理由もない。
ひっそりとここで暮らし続けるのか、それともどこかに行ってしまうのか…。
「あぁ、その事なんだがな…。旅をしようと思う」
「旅?」
「あぁ。外の世界を見てみたいんだ」
そう話す彼は期待と不安が入り混じったような瞳をしていた。
きっとそれがいいと私も思う。
「そこでだ…」
「うん?」
少し歯切れが悪く何か言いたそうにこちらを見ている。
「俺と一緒に来ないか?」
「…っ!」
「お前と一緒に居たいんだ」
「何言っ…」
彼の目を見て私は言葉が詰まってしまう。
本気なんだ。ふざけてなんかいない。
思わず神田の方をチラッと見てしまう。
彼は何を言うわけでもなく黙ってこちらを見ていた。
「もう何年も一人この場所に縛られ続けていた。お前が俺に自由をくれたんだ」
意外だった。彼自身がこの場所に居ることをそんな風に思っていた事を。
ずっと寂しい思いをしてきたのだろう。
だが…
「ごめん…。一緒には行けない」
彼がここまで私に執着する彼の世界に私しかいないからだ。
ずっと一人孤独に耐えて来た彼の事を考えれば、それは仕方のない事だ。