第1章 きり丸の拾い人 の段
「あれっ、開いてない・・・」
傷を確認したは意外そうに呟いた。
痛みの程度的に、この間の仕事で受けた傷跡が、パックリ開いたと思っていたのだ。
だが、きり丸の悲鳴に反し、としては冷静になれる現状がそこにはある。
「土井先生ー。傷、開いてませんでしたー」
生徒が報告するように、間の抜けた声では答える。
「先生ー、振り向いても大丈夫っすよ、これ、見ても絶対問題ないから・・・ね、さん!」
きり丸が、先生見てやれと半助を促す。
さてどうしたものかと思うのは大人二人。
(確かに胸は全然見えないけど、さらしぐるぐる巻き上半身だけでも一応恥じらいはあるよ、きり丸・・・)
(いや、見ろって言われても、いいのか?)
男と女は若干躊躇し合った。
傷は見られてもいいが、一応胸は見せたくない。
胸も気にならないとは断言出来ないが、傷は確実に気になる半助。
しばし空気が止まる。
やがて、はポンっと手を打ち、風呂敷を借りて怪我をしていない方の肩から胸元へぐるりと袈裟懸けた。
「土井先生ー、一応、見苦しい部分は隠しましたんでどうぞー」
ふざけた言葉で半助に声をかける。
(見苦しい物って・・・)
半助は困りながらも、火を止めて振り返る。
そこには、確かに上半身を包帯で巻きつくした、しかし今やはっきりと女にしか見えない人物がいた。
いつの間にか、ちゃっかり座っている。だが・・・
(いや、確かに隠してるけど・・・)
半助は逆に困っていた。
男(半助)と女()の価値観の違い、さらには男と男子(きり丸)の価値観の違いがそこにあった。
(いっそのこと、さらしそのままの方がマシなんだけどなぁ・・・)
中途半端に布を巻いたを見て、半助は一人頭を抱える。
さらしを巻いただけで『さぁ、来い☆』と迎えられた方が、こっちも客観的に傷口を見に行ける。
下手に隠してチラチラ見せられる方が時に扇情的なのだが、それをこの二人に言っても、恐らく通じないのだろう。
(はぁぁぁぁ・・・)
無駄な緊張と戦う羽目になりながら、半助はゆっくりに近寄った。
何もわからぬときり丸は、顔を見合せ笑っていた。