第5章 お台所と料理人 の段
ふわり
実際には、そう例えるにはふさわしくないかもしれない。
力強いし、勢いもある。
は組の山から一気に引っ張り出されたのだから。
しかし、には『ふわり』と感じられた。
それは、今のこの態勢のせいかもしれない。
「お前達、みんなで乗ったら『くん』が重たいだろ!」
殊更に『くん』を強調した物言いでは組を叱る声は、今、をお姫様抱っこで抱えあげた土井半助だった。
走っていたからか、その体は熱い。
引っ張られた腕は、人混みの中からでもしっかり負傷していない手を選んで捕まれていた。
捕まれていた腕の跡が、抱えられた身体が熱くなる。
「あっ、あの、土井先生・・・」
は半助を見上げる。
だが、半助はを振り返らなかった。
は組の面々を見下ろしたまま、一同を見渡す。
「あの~、土井先生!」
「さんって・・・」
「さっき、しんべヱが・・・」
は組一同が同時に何かを言いかける。
それを遮るかのように半助はクルリと無言で踵を返す。
途中でチラリときり丸に目をやり、一瞬だけ止まって、足早に歩き出した。
「屋根裏や木の上や床下や柱の影にいる者も、速やかに解散しなさ~い」
半助はそれだけ言うと、反論を待たず、抱えたの重みを苦にせず歩き出す。
半助の言葉にハッとなったが辺りを窺うと、確かに屋根裏やら木の上やら、そこらかしこに忍たまらしき気配があった。
半助にバレて明らかに動揺してものもある。
が、しっかり気配を消し続けようとしている者もいる。
は組の群れを脱出し多少余裕が戻ったにはその存在が気取られるが、普通の人間にはなかなか気付かれないであろう、完成度の高い忍びっぷり。
(高学年・・・5・6年生か・・・)
は悟って、半助の腕の中で身構える。
半助は、わずかに強ばったの腕を軽く握りしめると、何の説明もせず、を抱えたままスッと姿を消した。
『下手に追及される前にトンズラ』
きり丸の言いたかった『逃げろ』の意味を正確にくみ取り、半助は、は組その他大勢からを連れ去った形だ。
「「「ああっ、土井先生!!」」」
は組一同の非難の声が、学園に響き渡った。