第5章 お台所と料理人 の段
きり丸が、
「図書委員会行ってきま~す」
とその場を去ったのは、それからすぐの事だった。
なんやかんやで最後まで食堂に居座ってしまった半助は、最後の一口で喉を潤し湯呑みを置く。
食堂からは、片付けの下級生達もいなくなり、が必死に調理場を拭いていた。
半助は手を合わせた後ゆっくり立ち上がり、器を厨房へと下げに行く。
「ご馳走さま」
厨房の中にそう声をかけると、汗を流して調理場を磨く体が、すうっと起き上がった。
「あっ、土井先生、もらいます」
ニコリと笑い片手を出す。
ここ数日でかなりよくなったのか、肩を庇う素振りは全くない。
半助は一瞬悩んだが、素直に空になった器をに差し出した。
「美味しかったよ、ありがとう」
半助がそう言うと、はわずかにハニカミながら、その盆を受けとる。
そうして見つめあうこと、しばし。
やがて、二人はほぼ同時に視線をずらした。
(不自然じゃなかったよな・・・)
(駄目だ、何か照れる・・・)
それぞれが、相手も照れていることなど気付かずに、こっそり動揺し合う。
『土井先生も言ってあげて下さいね』
半助の中に、きり丸のさっきの声がふいによみがえった。
(そうは言っても、ここでいきなり切り出すのもおかしいか?)
半助は考える。
そして、目の前の人物をジッと見詰める。
は再び割烹着に身を包み、額に汗を浮かべている。
黙ったままの半助を見て、どうしたものかと少し困った仕草をする。
チョコンと小首を傾げるその様は、割烹着効果もあり、いつもより可愛らしい。
だが・・・
(一応これでも男装中なんだから、可愛いって言ったらマズイんだろうなぁ)
半助はそう思い言葉を飲んだ。
一方、言葉を続けない半助に困ったは、とりあえず受け取った空の器を片付け始める。
やがて台所も、すっかり綺麗になると、は横目で半助を見た。
まだ黙っている半助は、何やら思案しているように見える。
(変な事したかなぁ・・・料理、実は口に合わなかったとかだったら嫌だなぁ)
器は空っぽ。練り物は避けておいた。大丈夫だと信じたい。
そんなと半助の沈黙は、ある人物に破られるまで続いた。