第5章 お台所と料理人 の段
ぷぷっ♪
(きり丸って、本当に面白いなぁ)
は表情を一喜一憂させるきり丸に、思わず吹き出す。
大人びている様に見えて、実にしっかり子どもらしい。
素直な良い子だ。
はきり丸の頭を軽く小突き、フッと笑った。
「僕が自腹でも、きり丸がタダだからいいじゃないか。治療と寝床の恩に比べれば安いもんだよ。これでもそこそこ稼ぎはあるんだ」
そう言って、きり丸の顔を覗き込む。
きり丸は、タダという言葉に再び胸を踊らせ、さらにが発した『寝床の恩』という部分にキラリと目を輝かせた。
は、仕事をする時、かなり中身を探り受ける忍務を選ぶ。
それは、面倒くさがりだから楽な仕事がいいという理由以外に、『選らばないとバレやすい』からだ。
それでも、売れっ子フリーの山田利吉に及ばずとも、個性派フリーとしてそこそこ仕事には困らないの元には、『宛』の忍務がゴロゴロ転がりこむ。
稼ぎには実際困らない。
きり丸には、が『稼げる女』だという事がしっかり伝わっていた。
チラリときり丸は半助に視線を送った後で、意味ありげに笑い、軽快に『』に提案し始める。
「さん! あんな所でいいなら、いつでも土井先生の長屋に泊まりに来て下さい! 寝床の恩として僕にお駄賃とお土産を頂けるなら、そりゃあもういつだって歓迎です!」
そう言ってウキウキアヘアヘとし始めるきり丸。
目はもちろん銭マークだ。
「言っておくけど、アルバイトの手伝いはしないからね」
ここ数日で以前よりきり丸の生態がわかっているはすかさず釘をさす。
きり丸が、ちぇ~、っと残念がるのを見て、は苦笑したが、そんな楽しそうなを見て、実はきり丸の方こそがほくそ笑む。
その視線は、狼狽える半助をしっかり捕らえていた。
再びピタリと箸が止まった半助をよそに、はさっさと食事を平らげ、再び割烹着の裾をヒラリと舞わせる。
『食堂のくん』に颯爽と変身すると、半助にニコリと笑ってから自分の盆を持ち上げ、
「じゃ、お片付けに合流するんで、また後程。土井先生、早めに食べちゃって下さいね☆」
と言い残し、席を立った。