第5章 お台所と料理人 の段
照れ混じりの笑顔を向けられ、はバクバクする鼓動をひた隠しにお茶を流し込む。
誰が呼んだか初恋泥棒、爽やか笑顔の威力は半端なし。
(あぁ、きり丸・・・さすがに目ざとい・・・)
は恨みがましい視線をきり丸に向ける。
だが、きり丸は全く気にせずニヤニヤと笑う。
「さん、言っときますけど~、僕が気づかなくても土井先生が練り物相手に騒がない時点でバレバレですからね~」
「・・・それはごもっとも」
は深く息を吐く。
すっかりネタにされている半助は、
「こらこら」
と言いながらも、苦笑するばかりだ。
(きり丸の気をそらそうかな・・・)
は目一杯の『くん男前スマイル』を浮かべて、きり丸に自信たっぷりに微笑む。
そして、かなり減ってしまった膳を片手で指し示しながら、もう片方の手で銭マークを浮かべた。
「過去の忍務絡みで知り合った中に、農家の方や漁師さんが何人かいてね。いつも格安で食材を譲って貰っているんだ。自慢じゃないが、原価の安さはなかなかのもんだよ☆」
ニヤリと笑いながら『』が言うと、すぐさま目を銭にしたきり丸は食いつく。
「格安!?」
身を乗り出すきり丸。
さらに『』は追い込みをかける。
「半端ものの食材なら、自分で食べるに余る分をタダで頂けることもある☆」
「タダぁ♪」
アヘアヘときり丸が変な笑いを浮かべ始めるのを見て、『』がニヤリと笑う。
半助はそれに気付いたが、横から苦笑するに留める。
が『』として忍務をする中で手にいれた人脈。
それは、貴重な情報源であると同時に、貴重な食料調達経路にもなっていた。
このご時世、捨てる食材などそうそうない。
実際には、タダでもらえることはほとんどないに等しい。
だが、食糧難の折りも格安で食材を譲ってくれるだけで、非常にありがたいことだ。
今回、はその経路を発動し、半日で食材を調達してきたのだ。
「だけど、格安ってことはいくらかお金かかってるよね? まさか、これ全部、くんの自腹かい?」
半助が口を挟む。
自腹という単語にきり丸が心底嫌そうな顔をした。