第5章 お台所と料理人 の段
「それじゃ、お邪魔しま~す☆」
『』はニッコリ笑って席につくと、すぐに箸を持ち、おかずに手を伸ばした。
後片付けは、生徒に任せたらしい。配膳はあらかた終わったので、自分の食事にようやくありついたといったところだろう。
『』は食べながら半助の盆を見て、
「あっ、お口にあいませんでしたか?」
と中身がまだ残る皿を指し示す。
半助は慌てて手を振った。
「いや、美味しいよ! ちょっと考え事してたもんだから、ゆっくりになっちゃって!」
そう告げると、再び昼食の残りを食べ進める。
「大丈夫ですよ~、さん。ちょっと噛み締めてるだけだから」
「おいっ、きり丸」
きり丸が茶化して言うのを、半助は目でたしなめる。
は気に止めることなく、黙々と食事を進める。
それはなかなかの速度。
このままでは、あっという間に半助に追いつきそうだ。
「結構、食べるの早いね」
「あ~、仕事柄&自分で作ったものだからですかね」
汁物をすすり、『』は目だけ半助達に向けて話す。体は食事に向き合ったままだ。
「土井先生にご馳走になったとき、わりと自分の料理と味が近いなぁ、って思ったんですけど・・・大丈夫ですよね。食堂のおばちゃんみたいに美味しい料理じゃなくて申し訳ないですけど」
味が薄めだったのは、きり丸のせいだろ?とも付け加えて『』は笑う。
言われたきり丸は、バレたかと言いたげに、だが得意げに胸を張っていた。
やがて、『』の食べる速度が少し弱まったのを見てから、きり丸はニヤニヤと『』に顔を寄せる。
「ねえ、さん。土井先生の器に練り物が入ってなかったのって・・・わざとですか?」
楽しそうに聞くきり丸。
半助は、ドキッとして『』を見る。
『』は、顔をあげて、
「ん~っ」
と呟くと、半助からわずかに目をそらし、頬を赤くした。
「わざと、かな。土井先生、練り物嫌いですよね?」
照れながら答える『』。最初に取り分けていた、と間を置いて白状する。
そう幾度も食事で顔を合わせたことはないのに、自分の趣向をシッカリ把握していたに、半助は恥ずかしさと照れが混じった顔で微笑み返した。