第5章 お台所と料理人 の段
盆を持ってしばらくボーッと佇む半助。
(何でくんが割烹着?)
盆と台所を見比べていると、『』が半助に気付き、ニコリと笑った。
「安心して下さい、土井先生。服も頭巾も洗濯済の物です。割烹着は変装用の自前、こちらも洗濯済! その他もろもろ衛生面に抜かりはありません! 作ったものは全て毒見済、問題ありません☆」
『』は一気にそうまくしたてると、またみんなに食事を配膳し始める。
半助の疑問を全く解決していないとも気付かずに。
(気になってるのはそんな事じゃあないんだが・・・)
半助は戸惑った。
あの様子だと、本当に料理を作ったのはだ。
『』に扮しているとはいえ、半助からしてみれば、いきなり降ってわいた『気になるあの子の手料理(割烹着姿付き)』。
だが、さすがにここで赤くなったり喜ぶ訳にはいかない。
(の姿で料理して欲しいもんだなぁ)
が割烹着で台所に立つ姿を想像し、半助は慌てて頭からそれを打ち払う。
そんな想像しようものなら、それこそ顔が赤くなってしまう。
(全く、突然何をしてくれるんだか・・・)
そんな足が止まった半助を動かしてくれたのは、聞きなれた子供の声だった。
「土井先生~、こっちこっち~♪」
きり丸が椅子を陣取り、手招きして呼んでいる。
隣には乱太郎。しんべえはまだ帰ってきていないらしい。乱太郎もきり丸が予定より早く帰ったからだが、しんべえは逆に遅れているようだ。
「ほら、早く座って座って」
きり丸に促され、空いている向かいの席に腰をかける。
するとすぐさま、きり丸達が
「「いっただっきま~す♪」」
と両手を合わせた。
半助もそれにならい手を合わせる。
が、まだ口はつけない。
半助が黙って膳を見つめていると、乱太郎が心配そうに覗き込んだ。
「土井先生、大丈夫ですか?」
乱太郎が声をかける。
だが、きり丸はニヤニヤしながら半助を見ている。
「心配すんな、乱太郎。土井先生はいろいろ事情があって、ちょっと幸せな感傷に浸っていらっしゃるだけだ。ですよね、土井先生♪」
からかい口調のきり丸。
半助は否定も仕切れず、
「きり丸~・・・」
と項垂れた。
乱太郎は訳がわからず、首を傾げたが、すぐに食事を再開した。