第5章 お台所と料理人 の段
食堂に辿り着くと、そこには聞きなれた言葉が響き渡っていた。
「お残しは許しまへんで~!!」
食堂中に響き渡る、食堂のおばちゃんの名台詞。
ただ、それを発しているのは、おばちゃんではない。
「くん!」
半助はあきれた声で白い割烹着に呼び掛けた。
そう、食堂のお台所に立っていたのは、割烹着を着てノリノリでお玉を持つ・・・が扮する男装の忍、の姿。
(あれを『』くんって呼んでいいのか、かなり微妙なんだけど・・・)
半助はそう思いながら、入り口に呆然と立ち竦む。
すると後ろから・・・
「入り口を塞がないで下さい、土井先生」
「私たちも早く中に入りましょうよ~」
きり丸と乱太郎が背中を押した。
ドンッ!
転んだりはしないが、勢いよく食堂に突っ込む土井半助。
「こぉら、お前たち~!?」
半助が二人をたしなめるように怒鳴ると、厨房から陽気な声がこだました。
「あ~っはっはっ、やられましたね~土井先生☆」
「・・・くん、だよね」
半助が顔を上げ、一応確かめる様に言うと、『』が高らかに声を張り上げた。
「食堂のくんです☆」
そう言うと、忍らしい身の軽さを無駄に振りまき、割烹着をヒラヒラさせながら『』がポーズを決めた。
割烹着の下は忍装束。
ここ数日で『男・』の仕事着としてすっかり学園に定着した忍装束なうえ、頭にはしっかり忍頭巾も被ったまま。
本当に、上から割烹着を羽織っただけの状態だ。
(そう、たとえ羽織っているのが割烹着だったとしても、男に見える・・・はず・・・自信ないけど)
なんとかな弱み的感覚で、ちょっと女に見えるんだけど・・・とは言わず、半助は『』を見つめた。
だが、『』は有無を言わせず、チャカチャカと半助の前にお盆を突き出す。
「は~い、早く取って席に着いて下さい。後ろがつかえてま~す☆」
カチャッ!
押しつけられた盆を手に取る半助。
振り返ると、確かにそこには昼食待ちの列が出来ている。
「あ、あぁ、ありがとう」
受け取った盆を見ながら、半助はソッと横に体を避けた。
椀からは湯気が立ち、食欲を誘う香りが漂っていた。