第4章 土井先生と同居人 の段
翌朝、まだ日が上がりきらぬうちに目覚めた半助は、ほんのわずかに身をよじった。
すると・・・
「おはようございます、土井先生」
すぐに隣の布団から、小さな声が聞こえた。
「あっ、くん、起きてたのかい?」
身を起こし、半助は隣にいるを振り返る。
は、まだ布団に寝転がり、眠たそうな目をこすっていた。
「多分、今、土井先生が目覚めた気配で起きました」
「あ~、ごめん、起こしちゃったか」
半助がすまなさそうに頬をかきながら言うと、はゆっくりと体を起こす。
「いえ、大丈夫、ゆっくりと眠れました。偉そうなこと言っても、やっぱり布団は心地いいですね」
半助を見て、はふんわりと笑う。
そして、借り物の半助の布団をキュッと両手で抱きしめた。
まだ部屋は暗いため、ハッキリと顔が見えるわけではない。
だが、が穏やかな表情をしているであろうことは、半助にも予想がつく。
(自分の布団でこうも安心されると、どうにも照れくさいなぁ・・・)
半助はわずかに自分の体温が高くなった気がした。
布団をゆっくりと畳み、には
「もう一眠りしていていいよ」
と声をかける。
照れ隠しにの顔を見ないまま放たれた言葉。
だが、別に冷たいといった印象を与えることもなかったようで、はしばし考えた後、自分も自然に布団から抜け出した。
「名残惜しいですが、私も起きます」
わずかに乱れていた裾を整え、は立ち上がった。
(名残惜し・・・ねぇ)
が『温かい布団』に対して『名残惜し』と言ったのはわかっている。
だが、わかっていても、自分の布団から『名残惜しい』などと言われれば、変に意識してしまう。
半助は、頭をクシャクシャと掻いて、天を見上げた。
たかが数日の同室だとはわかっていても、平穏無事に過ごせるか、半助は嬉しさ混じりの苦労を感じ、息をもらす。
「土井先生?」
小首を傾げるが、半助を覗きこむ。
の寝起きの姿は、いつもより無防備に見えた。
「くん、おはよう」
今さらながら半助がそれだけ言うと、はニッコリ笑った。
二人の同室同居生活は、こうして始まった。