第4章 土井先生と同居人 の段
しばらく教材に筆を走らせていた半助は、やがての気配が完全に眠りについたのを確認し、筆を置いた。
フゥっと息を吐き、肩を揉む。
そうして、ゆっくりと灯りを落とすと、並べた布団の元に足を向けた。
は身動ぎもせず、静かに眠っている。
(よく眠っているな・・・)
半助は安心しての枕元に膝をつく。
がこの部屋で深い眠りにつくか半助は心配だった。
忍の性は自分もよく知っている。
だが、どこでも寝られると自分で言った通り、はキチンと眠りをとれているようだった。
怪我をして疲れているせいもあるだろうが、見知らぬ場所で眠る難しさを、半助もよく知っている。
(警戒する必要もなく、危険を感じることもなく、下心なく、見返りも求められず・・・)
半助は、が眠る前に呟いていた言葉を思い起こした。
が呟いた言葉が、きり丸に向けてか、あるいは自身を指していたかはわからない。
だが、半助の心にも、それはズシリと響いた。
(くんが眠れる理由が、私が側にいるからだとしたら・・・)
半助は小さく微笑む。
信頼を分かち合うと言えるほど、お互いを知っているわけでは全くない。
ただ1つの秘密を共有しているだけだ。
それだけなら、半助だけでなく、きり丸にも言えること。
だが、は半助の隣でスヤスヤと眠っている。
が半助を『この人の側は安心していい』と、無意識かもしれないが思っている事は多分間違いない。
(下心なく、と言い切っていいかは自信がないんだけどなぁ)
の横顔を見ながら、半助は困った様に笑う。
そして、そっとの髪に手を伸ばした。
(起きるかな・・・)
同じ忍として、も恐らくは、眠りの最中でも気配に敏感であろうことは予想出来る。
だが、半助がの髪に触れても、は目覚めない。
半助はスッと身を屈める。
かなり距離が近づいたが、は目覚めない。
(おやすみ、くん)
半助はの頭を優しく撫でると、そっと髪に唇を寄せた。
(私こそ眠れるかなぁ)
半助は頭を掻いて、ゆっくり自分の布団へ入っていった。