第4章 土井先生と同居人 の段
二人して部屋に戻った頃には、さすがに夜は更けていた。
身を清め直し寝間着に身を包んだは、ほうっと布団の横で髪を整えている。
寝間着は、の自前のものだ。
寝ている時に急に何かあっても男として飛び出せる様に、無地でなく濃い柄の厚手の浴衣。
家で半助の寝間着を着ていた時よりは色香が隠された姿に、半助はホッとした。
意識させられ過ぎる格好では、夜が越せない。
「先に寝ていていいよ。私は授業の準備を進めてから眠るから」
努めて冷静に半助が言い机に向かうと、は髪に櫛を通しながら振り返った。
「ありがとうございます~」
少し眠たいのか、警戒をほどいたからか、わずかに間延びした口調で答える。
そんなを微笑ましく見た半助だが、すぐに教材を広げる。
(変に意識するよりは先に寝てもらおう)
悪いとは思いつつも、半助は教材を広げる。
こうすればは邪魔になるまいと静かに佇むと思ったからだ。
授業再開を遅らせる予定とはいえ、用意はいずれにせよ必要だ。
半助は、は組の良い子達が少しでも覚えてくれるには・・・と画策しながら、机に向かう。
はその半助の様子を見ながら、なんら疑問に思わず黙って櫛をしまう。
しばらく静かに半助の横顔を見ていた。
だが、やがてクスッと笑う軽やかな声を洩らした。
「ん? くん、どうかしたかい?」
思わず半助が振り返ると、は口元に手を添え、柔らかい笑顔を浮かべている。
「あ、ごめんなさい、土井先生」
仕事の手を止めた半助に、は申し訳なさそうに、でも楽しそうに半助に笑顔を向けた。
「きり丸がいたら、『土井先生、灯りがもったいない!』って言いそうだなぁと思ったら、つい笑っちゃいました」
そう言ってクスクス笑う。
半助はつられて小さく笑みをもらす。
「ああ、きり丸なら言うだろうなぁ」
困ったもんだよ、と半助は笑う。
その顔が穏やかな優しさに満ちている事を見てとった。
きり丸と半助の事を、は詳しく聞いた訳ではない。だが、聞かなくても伝わる物はある。
「きり丸に土井先生がいてよかった」
はそう呟いた。