第4章 土井先生と同居人 の段
(土井先生って、頭撫でるの癖なんだよね、絶対)
一度ならずのナデナデに、反論するのも面倒くさくなったは照れを隠して斜め下を向く。
「それじゃ、『散歩』に行きましょうか」
わざとらしく『散歩』を強調して『』の足は廊下を進む。
「土井先生、学園の中と外、どっちに対しての見廻りなんですか?」
主に外を警戒しながら『』が半助に声をかける。
部屋にいた時より低く聞こえる声。
後ろ姿も、気配を隠さず足音をさせ、わざとらしく歩いている。
「先生来た!って気付いたら、ちょっと悪いことしてる生徒って、慌てて布団に潜るんですか?」
「忍たまに気付かせようと、そんなわざとらしい気配で歩いてるのかい? でも、今日は学園内にいる人数も少ないし、どちらかと言えば外を警戒する事になるかもね」
歩きながら半助が答える。
それを聞いた『』は立ち止まり、小さく『なるほど』と呟くと、自らの気配を隠し、足音を忍ばせ再び歩き出す。
「散歩だったら気配隠す必要もないかと思ったんですけど、きちんと見廻りしますか」
半助を少し振り返り、『』がニヤリと笑った。
目の奥が鋭く光り、自信に満ちた顔つき。
無表情で陰に徹する忍というのでなく、意外に好戦的なのもしれないな、と半助は思う。
「面倒なこと嫌いって言うわりに、結構積極的だね」
半助が笑うと、『』が顔をしかめた。
「仕事はチャカチャカ済ませる主義です。多少派手な事もしちゃうから、よく『忍ならもっと耐えろ、キチンと忍べ』って文句言われますよ」
それでも、長期任務は嫌だから『イケる』と踏んだらいっちゃいますけどね、と『』はおどけて見せた。
『イケイケどんどーん!!』と元気な声をあげる6年生の姿が半助の脳裏によぎる。
(あそこまでではないだろうが、近いものもあるのかもしれないな)
「怪我してるんだから控えめにね」
そう言って、半助はクスクスと笑った。
二人は見廻りを続ける。
幸いにして、その日、外からの侵入者はなかった。
半助と『』の見廻りは、暗がりの部屋でいつまでも銭を数えるきり丸を叱ったり、脱走している蛇を捕獲したり、ザクザクと聞こえる穴堀の主に注意をしたり、日常的な学園生活だった。