第4章 土井先生と同居人 の段
「えっ、くん・・・?」
突然呟かれた言葉に、半助は動きを止めた。
だが、は、何故半助が手を止めたのか、全く気付かなかった。
「どうかしました? 土井先生」
キョトンとする。
その様子に半助の方がどうしていいか対応に困る。
「いや、今・・・」
「今? どうかしました?」
聞き返すか迷う半助に、は自分の口元を拭う。
「なんかこぼれたりしました? だとしたら格好悪いなぁ」
見当違いな素振りをする。
洩れたのは茶や菓子でなく言葉なのだが、そこには全く気付かない。
「いや、今くんが・・・」
「私が?」
「好きって」
「はっ?」
「言ったんだけど・・・」
「・・・何に対して?」
「・・・さぁ、私が聞きたいんだけど」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
向かい合ったまま不思議な問答を繰り広げる二人。
やがて、らちが明かず、二人ともに目を反らし、視線を泳がせた。
(土井先生、どういう事? 好き・・・?)
(私の気のせい?・・・じゃないと思うんだけど)
お互いを気にしながら、と半助は無言で茶をすする。
やがて、沈黙に耐えられなくなったねはの方だった。
「甘い物は好きですか?」
さっきも聞いた質問を半助に投げかけると、半助は少し間を置いてから、さっきよりぎこちなく答える。
「好きだよ」
それを頬を少し染めながら聞いたは、笑いながら頷いた。
「私も好きです・・・そう言いたかったんですかね、私は」
パタパタ自分を扇ぎながら言う。
恐らく言いたい事は違うのだと自身わかっていたのだが、では何が好きだと思ったかをハッキリ表現出来る自身がなかったは、誤魔化しながら笑う。
それは、が思う『自然な笑み』では決してない。
半助も、の違和感には気づいたが、それ以上は触れなかった。
お茶と干菓子は少しずつ減っていく。
穏やかだった空間。そこに混ざった少しの戸惑いが、せっかくの時間の邪魔をする。
それを惜しいと思ったのは、きっとも半助も同じだった。