第4章 土井先生と同居人 の段
「昨日今日の怪我が未だに治っていないなら、それは大問題ですよ。くれぐれも安静になさって下さい」
僕なんかに言われるまでもないでしょうが、と付け加える伊作に、『』は笑った。
「ありがとう、あと、さっきはごめんね」
医務室での乱太郎を思い出し、『』は詫びる。
それに、伊作は本気で困ったように頭を掻きながら口を尖らせた。
「それもあるから取りに来たんですよ。何とか誤魔化しましたが、土井先生かさんがまたいらっしゃったら、乱太郎が思い出すだろうから」
言いながら伊作はほんのり赤くなる。自分も思い出したらしい。
『』は笑いながら、袖から小さな包みを1つ取り出す。それは、さっき半助に見せた物と同じ物だった。
「あげるから、乱太郎とお食べ☆」
『』が差し出すと、伊作は恐縮しながらもそれを受け取った。
そうして、ゆっくり踵を返す。
「ありがとうございます」
伊作が頭を下げた。それを気配で感じた『』は、軽く片手を上げて答える。
『』はゆっくり歩きながら教員長屋へ帰って来た。
「あれ? 土井先生?」
そこには、いるはずの半助がいない。部屋を見ると、何故かお茶の用意は先にされている。
(お茶を入れてから席を外すかなぁ?)
不思議に思ったが、『』は再びくつろぎ、に戻り座った。
お茶には手をつけず、部屋で待つこと暫し。
さほど待たず、半助は戻ってきた。
「ごめん、くん! 急にヘムヘムが呼びにきたもんだから!」
半助は焦っているが息は切らさず、の前に腰を下ろす。
わずかに乱れる前髪に、はクスリと笑って言った。
「大丈夫ですよ、まだお茶も冷めてなさそうですし」
うっすら湯気が見える湯呑みを見ながら、は干菓子の包みを開く。
それは、なかなか綺麗な細工の小粒の菓子で、数個がコロコロと肩を寄せあっていた。
「これはまた上品な意趣の菓子だね」
半助は感心すると同時に、疑問に思った。
家できり丸と荷物を漁っていた時には、こんな物はなかった。あったら雨にやられたか、きり丸に気付かれていたはずだ。
半助は一粒つまみ上げ、口に運ぶ。
見た目通りの上品な甘さが口に広がった。