第4章 土井先生と同居人 の段
お茶にする前には部屋が散らかっていたので、半助が自分の荷物と散らかった部屋を片付ける間に、は医務室へ借りた道具一式を返しに向かった。
廊下を歩くと、部屋の中より風が流れており、の火照った頬には心地よい。
(甘い物は好きかなんて白々しい・・・)
は先程の自分を思い出し、ため息を吐く。
土井半助が甘い物を嗜むということは知っている。
利吉がお土産を買う時に聞いていたし、さっきの茶屋の様子からしてみて一目瞭然だ。
練り物が大嫌いだという事も知っている。
それくらいには、は土井半助という人間に、以前から興味があった。
だが・・・
『好きだよ』
先程聞いた半助の声が耳に残っている。
自分の質問に答えただけだ、そうわかっているのに、動揺した自分には気付いていた。
理由まではわからないが、身体がなんだか熱くなる。
怪我のせいだとキッパリ言い切れない。
「この暑さはなんなんだろうね」
手が塞がっているから、手を扇代わりにあおぐことはかなわない。
しかも、学園内を彷徨くために、服は再びきっちりと着込んでいるのだから、暑さは倍増だ。
肩に負担をかけないように歩いていくと、前方に人の気配を感じて、は『』の意識を強めた。
現れたのは・・・
「善法寺伊作くん」
呼び掛けると、伊作は人の良さそうな笑顔に咎めるような気配も含ませながら、『』に近寄った。
「やっぱり。取りに来て正解でしたか」
伊作は優しく笑うと、さっきの半助ほどではないが、それでも自然に『』から荷物を自分に移す。
「後で取りに伺うと言っておくべきでした」
「あっ、ありがと」
空っぽになった両手で、『』は自分を扇いだ。
「あれ? 汗は出ていないようですが、暑いですか? 傷から熱でも出てないといいですけど」
伊作は、失礼します、と声をかけてから、『』の額に手のひらをつける。
当然だが熱はない。伊作は首を捻り、『』を見た。
「今から熱が出なきゃいいけど・・・」
『』にというより自分に呟いたらしい伊作に、『』は笑って答えた。
「昨日今日の怪我じゃないから」
だが、伊作は眉をしかめた。