第4章 土井先生と同居人 の段
目の前で頭を抱え出した土井半助を、はハテナ?と眺める。
「どうかしました、土井先生?」
心の底から『わかりませ~ん』とキョトンとする。
それを見て、半助はますます頭を抱え、肩を落とす。
(学園長・・・この子が女性だって知ってるなら、なんでわざわざ私の同室に・・・)
突然の思いつきで高笑いする学園長を思い出し、半助は胃の痛みを堪える。
『襲っちゃダメですよ~♪』
ニヤニヤと笑うきり丸の声も聞こえてくる様だ。
「学園長がご存知なら、今からでも、くの一長屋に・・・」
胃を押さえ半助が言うと、はバッと居住まいを正し、半助に頭を下げた。
「土井先生のお部屋に置いてください!」
三つ指ついて頭を下げる仕草は綺麗なものだが、いかんせん上半身は包帯+サラシ。心穏やかではない。
だが、は気にせず半助を見上げ瞳を潤ませる。
(これって・・・くんが無理って言い切った『色』に当たるんじゃ・・・)
男を崩落させるに充分な仕草。狙ってやっているなら充分に色も出来ると言えるし、無自覚ならば相当にたちが悪いと、半助は息を飲む。
「わかったから、とりあえず頭を上げてくれないか」
促すと、はバッと顔を上げて満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます! 邪魔にならない様にします!」
は力強く言い、また頭を下げる。
(邪魔うんぬんの話じゃないんだが・・・)
どこかずれたの力説に、半助はまたため息を洩らす。
「さっきも言いましたけど、下手な方と同室になるより、土井先生と一緒の方が安心なんです! ありがとうございます!」
は嬉しそうに笑ってそう言うが・・・
(私が『安心』だとどうして決めつけるかなぁ・・・)
心に悶々としさた苛立ちを覚えつつ、半助は頭を掻いた。
そして、ふと・・・
「くん、そういえばそれはどうしたんだい? そんなものなかったよね」
半助はの肩の赤いポツポツを指差して尋ねる。
色香が増して見える原因の1つは間違いなくそれだからだ。
伊作に『情事の跡』と思わせ、乱太郎には『虫刺され』と勘違いさせた、いくつもの鬱血。
包帯まみれの体つきの隙間から、それは意味ありげに存在を示していた。