第4章 土井先生と同居人 の段
「今度は叩かれなくて良かったです・・・」
撫でられている包帯を見ながら、はフッと息を吐いた。
「その怪我を見て叩ける程、私も鬼じゃないよ」
半助は呆れた顔をに向ける。
すると、は半助をジーっと見ながら、疑わしい目をしてみせる。
そして、言い訳のように、再び口を尖らせた。
「ちゃんと新野先生に診てもらうつもりで学園に来たんですよ。新野先生は『僕のこと知ってるんで』」
その言葉に、半助は驚いて目を丸くした。
の言葉尻から現れた『』の気配。
つまり、新野洋一は土井半助より先に『』が女だと知っていたという事になる。
「どうして・・・」
半助が言葉を詰まらせていると、は真面目な顔で半助に向き合った。
「利吉から、『』の事を学園長経由で話してもらっているはずだからです。何かあった時に、忍術学園でも治療出来るようにって。だから、新野先生は知っておられるはずです」
は半助の手を肩から自然に外させると、ゆっくり息を整え、口をまた開く。
「私が学園に来た理由は2つ。1つは、利吉に会う、叶わぬ時は山田先生に利吉への伝言を頼む。もう1つは、新野先生に肩を治療し直して貰うことです。どちらも無理そうだから、さっき、帰ろうとしたんですけどね」
そう言うと、はため息を吐いた。
半助は振り返る。
学園に来て、山田伝蔵と新野洋一の不在を知る。事務員・小松田から、利吉が来ていないと確かめる。仮に利吉が小松田をかわしてコッソリ学園に入り込む事があったとしても、行き先である山田伝蔵がいない以上、長居は考えにくい。
つまり、利吉への伝言も、新野による治療も、どちらも叶わないとは判断する事になる。
(それですぐ帰ろうとしたわけか・・・)
誤算は、小松田との追いかけっこで傷が開いた事だろう。
それがなければ、恐らく半助はを帰らせていたはずだ。
(あれ、ということは・・・)
半助はふと気付き、に尋ねる。
「それなら、学園長は君が女性だって知ってるんじゃあ・・・」
そう言うと、はアッサリ頷いた。
「知っておられますよ」
言い切ったに、半助は思わず頭を抱えた。