第4章 土井先生と同居人 の段
「利吉との連絡にも使ってた場所だし、アイツの私物もあるから引き払ったこと伝えたいんですよね。でも、小松田くんの持ってた入門票には、利吉が来た形跡なかったです」
さらりと言っただが、聞いている半助は心穏やかでないものがある。
(家に利吉くんの私物か・・・)
仕事仲間であり、半助より確実に利吉の方がとの接点は深い。
それはわかっていつつも、の隠れ家に利吉は普通に出入りしているという事が、心ざわめかせる。
(つまらない勝手な嫉妬だな)
今、は忍術学園にいる。だが、それすら利吉の為だというのは悔しい。
半助は、はずし終わった包帯をまとめると、の肩にスッと指をかける。
「これも私が外すかい?」
傷口に直に当てた布は、血の色が見える。半助がそれを指で撫でると、は身を強ばらせた。
「自分で取ります」
は半助の指を己の指で退けると、恐る恐る覗き込みながら布を外した。
「あーあ、やっぱり開いてる・・・」
は、傷を眺めながら顔をしかめた。
「まぁ、ある意味好都合か・・・土井先生、ちょっと診てもらえませんか?」
「ん?」
は半助に開いた傷を近付ける。
それを見た半助は、顔色を変えた。
「くん、これ、もしかして!?」
声を荒げて、思わずの腕を掴む。
すると、は苦悶の声を上げた。
「痛っ・・・土井先生、傷よりも今掴んでるトコが痛いです!」
訴えかける。
だが、半助は無視して傷を凝視した。
きり丸がを拾ってきた時、傷は歪な処置だが塞がっていた。
だからこそ、表面上の手当てしか半助はしていない。
だからこそ気付かなかった。
「この刀傷・・・毒刃だったのか・・・」
半助は苦々しげに呟いた。
初期の手当ての賜物か、パッと見にはその痕跡がない。
ただ、開いた傷を覗くと、中にわずかだが変色が見える。
「それで出血が止まりにくいのか・・・」
最初の手当てが悪いと責めた事を、とっさに半助は詫びようとした。
だが、それに気付いたは言葉を遮る。
「放置して悪化してるのは事実なんで」
顔をしかめながらもは笑った。