第3章 保健委員会と手負い人 の段
「いいよ、土井先生のお部屋でやってもらうから☆」
『』は笑った。
だが、伊作からすれば、治療は医務室の方が効率がいいように思え、
「同室の留三郎は今いないので、僕が乱太郎と一緒に部屋で包帯巻きしますから、ここを使って下さい」
善法寺伊作の同室、食満留三郎の不在を口にし、伊作が座を外そうとする。
それを、再び『』が遮った。
「いいよ、僕が場を変える。土井先生、いいですよね? 行きましょうか☆」
『』はニコリと半助を廊下へ促す。
(いいですよね?と言われても・・・)
半助は悩むが、『』の事情からすれば、半助と『』が場所を変えるのが正しいとは思った。医務室では、他に訪ねてくる人間がいるかもしれない。
人気の少ない今の学園なら、教師長屋の方が来訪者は少ないだろう。
移動する先が自分の自室であり、かつ、『』が実はという女性だと知っている半助は躊躇したかったが、やむを得ない。
半助も提案を飲んだ。
「わかった、私達が場所を変える。お前たちはここで作業を続けなさい」
半助は『』の手からさりげなく荷物を取ると、廊下へ出た。
「薬ありがとうね、善法寺伊作くん。あと、乱太郎は『いろいろ』ありがと」
言い残し、『』は半助の後に続く。
『いろいろ』に含みを持たせて言ったことに、乱太郎以外は気付いたが、何も言わなかった。
『』は半助と共に、笑って歩き出した。
少し進んだ頃、後にした医務室からは
「伊作先輩ー? さっきのってつまりどういう事なんですか?」
「乱太郎、忘れてくれていい、いや、忘れてくれないか・・・」
「でも、あんなに赤い虫刺され、『』さん、痒いだろうなぁ」
「いや、あれは痒いとかじゃなくて・・・」
「えっ、違うんですか、伊作先輩!」
「いや、だから・・・」
というやり取りが漏れていた。
伊作は一人、不幸を噛みしめていたのは言うまでもない。
『』は苦笑し、半助は伊作に同情しながら、医務室を後にした。